第4話

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 わたしの中で彼の存在は確かに大きいけれど、一番とは言えなかった。  彼の想いを悟っても、何より優先することができなくて、そう気がついてしまった。  悠真の言う通り、もう何も遠慮したり躊躇(ちゅうちょ)したりする必要なんてないのに。 「……何でそんな表情(かお)してるの?」  普段より静かなトーンで、大和くんに尋ねられる。 「え……」 「何だか不安そうに見える。それとも、越智に突き放されたことがショック?」  自分が実際にどんな顔をしているのか分からないけれど、完全に無意識だった。  戸惑いながら思わず頬に手を当てると、大和くんも表情を(かげ)らせる。  図らずも鏡になって、わたしの浮かべていた表情を自覚した。 「……好きなの?」 「えっ? そ、そういうわけじゃないよ!」  悠真のことを、だろうと文脈的に察すると、慌てて否定する。  付き合いが長いからお互いに気心が知れていて、言わば親友に近い関係だと思っている。  そもそもわたしが好きなのは、あの頃からずっと大和くんただひとりだ。 「そっか、そうだよね。よかった」  安堵したように柔らかく笑う彼は、余裕を取り戻したようだった。 (あ……)  不意に気づく。  大和くんもまた、わたしの気持ちを期待して、当たり前に信じているんだ。  ────ふたりで歩き出してからは、彼は昨日案内をしたときと同じように純真な笑みをたたえていた。  幼少期のあのひと幕と変わらない、嬉しそうな笑顔。  悠真やほかの誰かに対して見せる牽制(けんせい)のような気配はない。  それが勘違いじゃないのなら、本当にわたしのことしか見ていない。  意図的にそうしているのが分かるほど、わたしにしか心を開いていなくて、強い親愛の情を抱いてくれているみたいだ。 (そんなに、わたしのこと……)  じっと見つめていると、ふと大和くんがこちらを向いた。  愛おしげに双眸(そうぼう)が和らぎ、どきりとする。  照れくささに耐えられなくてつい視線を逸らすと、くす、と優しい笑いが降ってきた。  何だか耳が熱くなってくる。  それから一拍置いて、大和くんが言った。 「……ごめんね」
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