第4話

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 急に何のことだろう、と再び見上げると、今度は彼の方が俯きがちに目を外す。 「俺ね、やきもち焼いてた」 「やきもち?」 「越智が……羨ましくて」  微笑みを崩しはしなかったけれど、やわくて切なげな色が広がっていた。 「俺がきみに会いたくても会えなかった間、あいつはずっとそばにいたんでしょ」  彼の瞳に、再びわたしがおさまった。  わたしもまた、視界の真ん中に彼を捉えていた。 「俺より長いこと一緒にいて、俺の知らないふたりの時間があって……。風ちゃんに大事に思われてる。そんなの、羨ましくて仕方ないよ」  悠真に対する挑戦的な言動や露骨(ろこつ)な当てつけは、そんな思いが隠されていたからこそだったようだ。  3人で仲良くできないかな、なんて気楽に考えていたのを恥じ入る。  きっと、悠真にもまた想像の及ばない真意があるのだろう。様子がおかしいのはそのせいかもしれない。  そんなことを考えながら口を開く。 「……でも、一日も忘れたことなかったよ」  はっとした彼に、小さく笑いかけてみせる。 「わたしも大和くんにずっと会いたかったから」 「風ちゃん……」  儚げに揺れていた大和くんの双眸(そうぼう)が、わずかに(きら)めいた。  心地いいような感覚を覚える。彼との距離感を思い出しつつあるのかもしれない。  ふと大和くんが眉を下げ、ふらりと前を向く。 「……ごめん」 「えっ、また? 今度はどうしたの?」 「俺、嫌なやつだ」  まったく予想外のひとことに、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。  聞き返すより先に、自信なさげな声で言葉が紡がれる。 「越智に遠慮させてるのは自分だって分かってるのに、風ちゃんとふたりになれて嬉しいとか、邪魔者がいなくなってくれたとか、いまそんなこと思ってる……」  率直で正直な心情が吐露(とろ)され、すぐには何も言えなかった。  大和くんは困ったように笑って肩をすくめる。 「幻滅(げんめつ)した? こんな、俺の黒い部分」 「そんなこと……」  打ち明けたことは意外ではあったけれど、幻滅なんてするはずがない。  わたしも彼の立場なら、きっと同じくらい欲張りになると思うから。 「風ちゃんには嘘つきたくなかった。ちゃんと分かってて欲しいから」 「なに、を?」  半分は何となく想像がついているくせに、それでも尋ねてしまった。  間が持てないから?  返す言葉を探す時間を稼ぎたいから?  ……そうじゃなくて、きっと、ただ聞きたかっただけだ。  わたしはわたしで欲張りだった。 「そのくらい、本気で欲しいと思ってるってことを」
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