第1話

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 わたしの視線に気づいていないのか、あるいはあえて気に留めないようにしているのか、まるごと無視して悠真はぽつりと口を開く。 「一緒に帰ろ」 「えっ?」  つい反射的な反応をしてしまった。驚いて、戸惑う。  本当にどうしたというのだろう。  そんなふうに誘ってくれるのも初めてだ。  成り行きでそうすることはあっても、あらかじめ約束をとりつけたことは一度もなかった。 「……嫌なら諦める」  わたしをちらりと横目で窺った悠真が、遠慮がちに小さな声で言う。 「全然、そんなことない! でも……何で?」  慌てて首を横に振ると、疑問がそのまま口をついた。  躊躇(ためら)うような、考えるような、そんな間が空いてから答えが返ってくる。 「……少しでも長く一緒にいたいから」  あまりに予想外で、咄嗟に言葉が出てこなかった。  声すら喉に詰まり、一瞬だけ呼吸を忘れた。 (え?)  戸惑いが動揺に変わると、ふと鼓動を意識させられる。  そのことにますます困惑して、少し頬に熱を感じた。  繰り返して強調される“一緒に”という言葉に冷静さを奪われた挙句(あげく)、感情を(さら)われそうになる。  ようやくこちらを向いた悠真の眼差しは真剣で、だけど覗き込んでも真意までは見通せない。  その双眸(そうぼう)に捕まっていると、何だか飲み込まれてしまいそうな気がした。 「な、なに言って……っ」  冗談めかして笑おうと思ったところ、ガッ、と石か何かにつまずいた。  つんのめって息をのむ。  けれど、覚悟したような痛みはやって来なかった。  代わりにお腹から腰にかけて別の衝撃が訪れる。 「大丈夫?」  はっとして顔を上げると、至近距離で彼と目が合った。  咄嗟に支えてくれたのだとやっと気がつく。 「だ、大丈夫……! ごめん」 「……なにやってんの、ドジ」  いまになって照れくさくなったのか、回した腕をほどきながら悠真は毒づいた。  最後に背中に添えられていた手が離れたけれど、感触はなかなか消えずに残ったままだ。
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