第2話

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 春の陽だまり。  シロツメクサの花かんむりと指輪。  頬を染めて幸せそうに笑い合う姿。 『おとなになったら、けっこんしよう』 『うん、約束……!』  切り取ったようにその場面が鮮明に蘇り、気づいたら頬に熱が宿っていた。 (いまも……有効、なの?)  瞳が揺らぐのを自覚しながら彼を見返したとき、ふっと横に気配を感じた。 「近い」  びくりと肩が跳ねる。  いつの間にかそばに立っていた悠真が、普段通りの淡々とした口調で言う。 「悠真」 「……いつまでそうしてんの」 「え? わっ、本当だ」  指摘されて初めて、大和くんに手を握られたままだということに気がついた。  驚くほど体温や感触が馴染んでいたせいか、それ以上に衝撃的なことがあったからか、完全に意識の外側にあった。  慌てて手を引こうとしたけれど、なぜだか逆に力を込めて阻まれた。  大和くんはあの表面的な微笑を浮かべたかと思うと、まじまじと悠真を眺めて首を傾げる。 「悠真……って、もしかして越智(おち)悠真?」 「だったらなに。早く離して」 「え? やだ。風ちゃんは俺のだし、何できみの言うこと聞かなきゃなんないの?」  ふたりが静かな火花を散らしているように感じられて、わたしは唖然としてしまいながら何も言えないでいた。 (な、なにこの状況……)  困惑しながら視線を行き来させていると、ふと悠真が動いた。  ぐい、とわたしの腕を引き、大和くんから強引に引き剥がす。  するりと彼の手が離れると、重なっていた体温が消えた。 「残念」  くす、と大和くんが笑う。  冗談にしても本気にしても、随分と余裕そうな態度だった。 「……触んないで」  対して悠真は珍しく苛立っているのか、不機嫌なのが目に見えて分かる。  前面に押し出した警戒心を隠そうともしないで、こんなに険しい表情をしているところは初めて見た。 「どうして?」 「どうしても」 「へぇ、きみがそんなこと言うなんて。……きみってさ、一匹狼っていうかひとりぼっちっていうか、誰にも無関心って感じじゃなかったっけ?」 「おまえは誰に対してもいい顔してるぺらぺらな人気者だったよね。俺のこと覚えてるなんて意外」  ぴくりと大和くんの眉が動いた。  お互いに遠慮も容赦もないもの言いだ。  喧嘩はして欲しくないけれど、わたしが口を挟む隙もなく、成り行きを見守ることしかできない。 「……あ、もしかして」  何かをひらめいたような大和くんが、わざとらしい笑みを浮かべる。 「好きなの? 風ちゃんのこと」
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