退院

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29日、いよいよ明日は退院だ。 経験が有るので、9時半にカートを持って、ディルームまで来てねと 娘にメールする。 ナースセンターにも、カートは有るが、使ったら戻しに来ないといけないので 一階のカートを、持って来てもらう事にした。 もう使わない、お風呂用具や着替えも、明日着る分を残して、紙袋に詰める。 これで良し、明日使った物を、入れれば、直ぐ部屋を出られる。 10時になったら、次の患者さんの為の ベットメイキングをする人が来るので、速やかに退室しないといけない。 夕方になった、Bさんが、履いて来た靴が無いと騒ぎだす。 「初めに入った部屋に無いかと、探しに言ったけど、無かった」と、言う。 ここでは、初めに入る部屋から、手術した後に入る、一人部屋 様態が落ち着いたら、四人部屋にと、あちこちの部屋を移動する。 その度に、患者さんが寝ているベットや、患者さんの全ての荷物を ナースさん達が運んでくれる。 「靴が、私の靴が、、探して下さい」と、言うBさんの為に、ナースさんも 始めの部屋やら、術後の部屋やら、探してくれたが、見つからなかった。 「靴が無いと、明日帰れない」と、Bさんは泣くような声で訴える。 すると、わらわらと、大勢のナースさん達がやって来た。 「探してないのは、この部屋だけなんです」と、担当のナースさん。 「どんな靴ですか?」と、Bさんに聞くナースさんもいる。 「ぼろっちぃのですが、お気に入りの靴なんです」と、Bさん。 「よし、それじゃ手分けして探しましょう」と、ナースさん達は 一斉に、Bさんの周りを、探し始めた、、、が 10秒もしないうちに「これじゃ無い?」と、あっけなく靴は見つかった。 ちょっと良く見れば、目に付く場所に有った様だ。 「あ、それです、それ」Bさんが、嬉しそうに言った時 「わぁ~本当に、ぼろっちぃね」と、無邪気な声で 一人のナースさんが言った。 Bさんは、むっとした声で「新しいのは有るんですよ でも、これが履きやすくて」と、良い訳をしている。 「まぁ、見つかって良かった良かった」そう言って ナースさん達は、ぞろぞろと帰って行った。 いつもの事だが、退院するほど元気なのに、自分では、ろくに探しもせず 忙しいナースさん達の手を、煩わせるなんて、、 これじゃ、Bさんの家族も、大変だろうな~と、要らぬ事を思う。 その後、先生に「じっとしていたら痛くないけど、身体をねじったりすると 傷口が痛むんです、何か、おかしいのでは無いでしょうか」と、訴える。 先生は、呆れた声で「まだ、術後一週間ですからね、変わった動きをすれば 傷むのは当然です」と、言う。 「どの位したら、痛く無くなりますか?」 「どんな体勢でも、痛まなくなるのは、一か月位かかります」 「そんなに?」「ええ、この手術した、皆さん全員そうですよ」 「私だけじゃ無いんですね」Bさんは、皆と一緒だと聞いて、やっと納得した 指先を、包丁で切った傷でも、暫くは痛むのに、と、私も呆れる。 そして、夜が来た、その夜も、Bさんの奇声で、起こされる。 その奇声は、必ず二回、どんな意味が有るのか、無いのか、、、 とにかく、明日からは、この奇声寝言も、もう、聞く事も無いのだ。
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