〈序章編〉理想の引っ越しをご案内いたします 【曰くつき六つ子の円舞曲 〜 そして神龍時 嵐は、今日も次男坊にパシられる 〜

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【〈あなた〉という、理想の引っ越しをお手伝いさせて頂きます! お見積りなどご相談受付は、◯◯映画館内にて。営業時間 十七時〜二十時。  ご依頼、お待ちしております! 株式会社 都治上ひっこしセンターより】    現在、十八時。  昼間の空気を焼きつける暑さがしつこく残る、熱帯夜。三日後に涼しくなる暦が替わるのに、拒むかのように主張している。  いつもの帰り道である一本道。アスファルトから発生されている地熱に、自身の周りに聳え立つコンクリートの塀。一軒家ごとに覆われており、それぞれ高さがバラバラである。  本日も都内百貨店内の入口付近で設置されている、某有名な洋菓子店で勤務してきた彼女。  名は、加藤 茉莉。  高校卒業して今の場所で派遣社員として就職し、四年目である。  いつもは、遅番勤務でこの道を通るのは約二十一時頃。今日は、久々の早番勤務だったため一時間前に退勤をした。その上、給料日と重なり上機嫌の彼女。 「うーん。今日の日替わりお夕飯、おいしかったぁ~!」  そして帰りに寄ってきた、去年まで友達とよく足を運んでいた沖縄大衆居酒屋〈ヘビー・バギー〉。  ここで夕飯として地元の郷土料理を食べ、泡盛を吞む。それは、友人と食事するときのルーティン。  それが、一人で居てもなかなか抜けないもの。都会の隅で築三十五年の1K賃貸アパートに住んで、四年経ってもだ。 「久々に、泡盛とゴーヤーチャンプルーを食べたら皆んなのことを思い出しちゃった……」 ***  高校卒業後。友人たち三人と上京した、春のこと。この都内に憧れて引っ越してきた。  四人それぞれ不慣れな一人暮らしの生活をしながらも、先ほどの大衆居酒屋に集まって上司、先輩の愚痴を言ったり、とある男性社員に片思いをしているとかの恋バナをして楽しんだ。二年前は。  そう、二年前は四人全員で楽しんでいたのだ。  時とは残酷で。人それぞれに━━色んな形の節目が訪れる。 ーー最初は、一人目。 「私ね、今の彼氏と結婚することになったの!」  後に、旦那の転勤について行くことになり徳島に引っ越した。  しばらくの間は、電話のやり取りをしていた。だが、子供が生まれてからは、年に一度送られてくる年賀状のみで、元気な姿が見れている状態だ。  一人目から半年後。二人目。 「あたしさ、海外出張することになったんだよね~。ほんッと、嫌になッちゃうわ」  支店先のスウェーデンで人手不足が理由で、人事異動をされたとの事。語学も長けていたのもあり、実力も買われたらしい。  海外へ引っ越し暫くは、メールのやりとりが主だったが今は半年に一回くらいの電話連絡のみ。日本へ帰国予定は無い。  寧ろ、福利厚生が日本より良くて帰りたく無い、という事。  最後に残った友人とは、 「私たちだけでも、今みたいにずっと一緒にいようね!」  とあの時、誓いあった。今年の春までは。
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