発覚

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「まさか生真面目なおまえが手ェ出すとはな」 「なんの事だ」 「しらばっくれるんじゃねぇ、野口から聞いたぞ。安倍、おまえ江別由紀恵と関係があったそうだな」  後頭部を鈍器で殴られた様な気がした。 「野口が」 「江別が野口に相談したそうだ、安倍所長に遊ばれたってな」 「遊んだなんてそんな事は」  佐川の厚い手のひらがテーブルを激しく叩いた。 「なに寝ぼけた事言ってるんだ!てめぇの嫁は佐々木電機の娘だろうが!不倫が知れたら契約どころか会社(うち)の信用にも関わるんだぞ!事の重大さが分かってんのか!」  俺はなにも言えなかった。 「安倍、おまえに近々辞令が下りる」 「辞令」 「内勤からは除外、乗務員に逆戻りだ。10年間の信用があんな小娘ひとりに引っ掛かって振り出しに戻る、だ」 「ーーー乗務員」 「黒塗りじゃねぇぞ、走行距離ん十万kmのおんぼろタクシーだ」 「ーーーーー」 「振り出しならまだ良いがな!他の乗務員がどんな目でおまえを見るか、おまえならよく知っているだろう!アホな事をしたもんだなぁ!」  2年前、加賀営業所の所長が事務所に出入りしていたヤクルト販売員と不倫関係に陥り離婚騒動、1年前には本社の乗務員がデリバリーヘルス嬢に手を出して刃傷(にんじょう)沙汰の事件を起こした。そいつ等は今、営業所の片隅でタクシーを洗車し肩身の狭い思いをしている。当時の俺は馬鹿げた事をしたもんだとその男たちを蔑んだ。
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