履歴書

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履歴書

 慌ただしい配車依頼の入電、街を走るタクシーからのクレーム、事務所に立ち寄り両替を急かす乗務員。ここは北陸交通株式会社(ほくりくこうつうかぶしきがしゃ)、金沢市西泉(にしいずみ)に本社を構えている。 (あーーー、そういえば今日はひとり面接が入っていたな)  コンクリート打ちっぱなしの社屋、隣には鉄筋コンクリート4階建ての立体駐車場がある。その3階まではタクシー100台が駐車出来、屋上は社員専用の駐車場となっていた。俺はこの会社に勤務して10年、タクシー乗務員を経て4年前に本社所長職に就いた。 (ーーー美味い)  撫子は「今日は里芋の煮っ転がしだよ」と俺に弁当を手渡した。 (これも美味い)  結婚5年ともなると撫子の料理の腕前は格段に上がっていた。 「あらぁ、所長、今日のお弁当も美味しそうやね」 「そうかな」 「奥さんは所長の事が本当に好きなんやねぇ」 「そうかな」 「そうですよぉ」  弁当の卵焼き、長さが揃えられた人参と牛蒡(ごぼう)、年配女性事務員の高橋さんが湯呑み茶碗をデスクに置きながら肩を叩いた。  湯呑み茶碗に茶柱が立った。 「高橋さん、茶柱が立ったよ!」 「所長、良い事があるかもしれんね」 「良い事か、楽しみだな」  そこへ新しい乗務員募集面接が16:00から入っていると事務方から伝達があった。面接でならば履歴書に目を通して欲しいと言った。 「ーーーーあ、所長」 「なに」 「今日の面接、覚えてますか?」 「女性乗務員だって聞いたけれど」 「はい」 「貴重な戦力になってくれそうだなぁ」  15:50、俺は乗務員が起こした交通事故申告書の整理を始めた。 キィ 「よろしくお願いします」 「どうぞお入りください」 「失礼します」 バタン  声質はやや落ち着いた悪く言えばくぐもった低めの声で、撫子とは正反対だと思った。また、鉄の扉の向こうの雰囲気からはタクシー乗務員を希望するには若年の女性を連想させた。
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