ブレッザ・ラボ・ファーム

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ブレッザ・ラボ・ファーム

 1人でこんな所に暮らして…  不便じゃないのか?  遊べそうな所も、何も無いし。  田舎だし?  …とは、よく言われる。  確かに交通手段は、限られている上に電車もバスの本数も限られている。  高二の終わり。  来年は、受験生だとか、なんとなく将来を考えてい頃。  周りの影響から。こんな田舎臭い町なんって、早く出ていきたいと暇さえあれば仲間内で、言い合っていた。  気が付けば、同じように都市部の大学に進学する同級生達とも、そう話し込むことも、少なくなかった。  田舎特有な偏見と言うか、都市部に一時的にも、住めると言う好奇心のような響きだけで、まだ暮らした事もないのに勝手に快適さを感じていたりで…  合格早々に部屋を見付け都市部に住むと言う目的は、果たされた。  細い路地裏でも、道が整備されていて砂利道なって略無いし。  都市部では、大きな害虫クラスの虫を見つけるこも、見渡す限りの草むらを歩くこともない。  田舎のまばらな人影とは、違い。  常に慌ただしく早足に歩いていける光景に、最初は慣れなかったが、気が付いたら自分も、同じ流れに乗っかってた。    その流れの中で、何か釈然としない自分に気付かされた時、素直に今の自分が、嫌だと感じたのも本当で…    このままここに居ると、間違いなく田舎に帰られなくなりそうな気がして、学べるモノを学んで、そのまま実家の方に帰って来てしまった。  最初、同級生達には勿体無いと、散々言われたけど…  今は、これで良かったと思っているし学べた事を生かして、生活が出来ている。  マウントみたいな同級生達のSNS等の近況報告には、 だいぶ慣れて最近では、反応もそこそこに見たり見なかったり。  まぁ…仕事の方が、忙しすぎて全部に反応するのが面倒くさいが、本音だけど…    でも、なんって言うか…  たまに…  分刻みの電車もバスも、何でも近くあって…不便さを感じない最高な生活も、惜しかったと、笑って思える時もある。  僕が、経験してきた両方の生活を比較したところで良いところだけを、比較するのは自分の我儘。  他人からすれば、ただのやっかみでしかない。  だから。戻ることなく都市部に住み着いて居れば良かったんだと、言われてしまうのだろう。  就活を真面目にこなして、就職する。  それは、立派な事だし。  今の僕には、真似は出来そうもない。  おそらく。  あの空気の中では数年と、もたなかった。  結果的に、これで良かったんだ。  憧れだけでは、暮らしていけない。  きっと、学べる数年の間と言う期限付きの暮しに僕は、満足してしまったとか、今では開き直っている。    「ハイ。…お待たせしました。ブレッザ・ラボ・ファームです。……先週の多肉植物の問い合わせでしたね? お待ちしておりました。説明だけでは、不安と言うことで、気を付けることや植物の解説を、分かりやすく書き留めた資料を、送らさせていただきますので…」  …と、言う仕事の問い合わせ等は、午前中で業務を一旦終わらせている。  午後からは、昼を挟んで植物の世話や必要な資材の買い出しに発注。  注文を受け付けた寄せ植え作りを、一日置き交替で、二つの業務を一人でこなしている。  ちなみに今日は、買い出しの日だ。  昼を早目に取ったために水やりも、昼休憩中に終わってしまっていた。  なんって、余裕を持てるのは1ヶ月も無いぐらいだ。  春の終わり頃までは、それで間に合うのだが、夏頃から秋口に掛けては、その余裕もなくなる。  最初は、ホームページに寄せられた問い合わせから始まった。  自分で、植物を選んで寄せ植え作りを体験してみたい。  直接、販売をしてもらいたい。  僕自身も、興味を持ってもらえればと取り組んだら。  思いの外に好評で…  夏場の土日限定として企画すると予約は、あっという間に埋まってしまった。  さすがにそれは、僕一人でどうにかなるとは、思えなくて…  同級生の伝で、色々なバイトとをしてきたと言う吾住を紹介してもらった訳だ。  ただ吾住も、今年は本格的に就活に取り組んでいるために本人に手伝いを頼むと言うよりも、誰かを紹介して欲しいと、無理を承知でお願いした訳なんだが…  あっさりと、別な子を紹介されてしまった。  声に少し元気が無いことが、気掛かりだったが…  声のトーンは、ハッキリと聞き取れる子に思えた。  1日間を空けて吾住に連絡をとってみると、直と名乗った子は中学からの同級生で、訳あってバイトを探していると言い事だけは、教えてもらった。  『別に訳ありとかじゃねぇーよ。不運なヤツで……オレ自身も、かなり怒ってんだよ』  「なんで?」  『…えっ…』  「だいたい。バイト先で何かあったとか…理由は、人間関係じゃないの?」  『直は、悪くない。巻き込まれたんだよ…昔から。鈍臭くて、何か、とんでもないヤツに目をつけられるし…』  …と紹介してきた子を、自らディスりだした。  「なぁ…吾住。僕に好印象を、付けたいの? それとも…トラブルメーカって、思われたいの?」  『なんって言うか…その…』  「その?」  ハッキリとしない受答えだな。  吾住にしては、珍しい。  「アイツさぁ…性格は、素直でいいヤツなんだ。だからかなぁ…ダメンズにばっかり引っ掛かるっての?…」  吾住の知り合いって事は…  まぁ…そう言う恋愛対象なのは、予想が付いた。  僕みたいな異性愛者の知り合いは、少ないんじゃないだろうか?  出会った所も、大学のOB会にたまたま顔を出していて…  吾住が、隣に座ったのが最初だった。  何でも、近場の田舎に祖父母の家があって、そこまで大きくはないけど、農家をしていて休みや長期休暇的な時は、よく家族総出で手伝いに行っていたとを、僕の名刺と職業を伝えたところを、教えてくれた。  そう言う経験から夏場限定で、手伝いをしてもらっていた訳だ。  子供の頃から手伝っていたと、自ら言ってきただけあって、段取りもいいし。手際もいい。  それに一から教える手間が、省かれた分。効率も上がった。  「巻き込まれたって…恋愛的なそう言う事が、原因なの?」  『ん…まぁ…そんなとこ……その…オレが、言ったって…言うなよ』  渋々と言葉を選ぶように直くんの身に振り掛かったゴタゴタを話し出した。  「…それは、修羅場だね…」  『だろ? その浮気相手が、そこまでするかって感じで…』  事実上の勝利宣言で、果たして終わる話しなのか? 疑問だ。  「…何とも、言えないね」  『だから。避難させてやろうかって…話で…』  避難と言う言葉に、少し引っ掛かりを覚える。  『浮気相手は、ヤバめなヤツだし。元カレの家も近くだし。会わないように、させたいんだ』  確かに、これ以上、絡んでこない保証はない。  『だろ? バイト先まで押し掛けるようなヤツだから…しばらくは、こっちで仕事できなさそうだし。下手な噂でも立てられたら…』  可哀想か……  しかし、とんでもないヤツらに絡まれたものだ。  『直から相手の話し聞いてると、直は、バカみたいに相手に好かれようとして尽くすんだよ。今回は、若干…貢いでしまったらしい』  まだ会ったことないけど…  「…元々、そう言う子なの?」  少し偏見で、見てしまいそうになる。  すると吾住は、酷く慌てた。  『いや! 性格は、いいヤツなんだって、仕事もできるし。いいヤツ過ぎてダメなんだよ…』  うん。  たまに…居るね。  そう言う子。  器用貧乏ってのとは、少し違うけど、正直過ぎて馬鹿を見る。  「……………」    おそらく直くんの場合は、自分にも相手にも、良い人過ぎての方が、言葉が合っているかもしれない…  要は、好きになると、その人の事しか見えなくなって、相手に依存まではいかなくとも…  誰よりも、好きなんだと相手に思われていたいのでは?  『あぁ…そんな感じかなぁ…いやさぁ…オレも、何度か別れろとか、他に紹介するぞって、諭したんだけど…ダメだった…』  「そう言う子って」  そう言うヤツにしか、恋愛感情が、わかないらしいから……  『だから。なんって言うの? リハビリの面倒見てくない?』  「リハビリ?」  『取り敢えず。当分恋愛禁止で、働かせてやって欲しい!』  「僕に見張れと?」  得に直くんって子は、惚れやすいとまではいかないけど、困って居る人が、いるとほっとけない性格らしいから…  『で、世話焼きタイプで…直は、家事とか、何でもできるし。人当たりも、良いし愛想も良いから。人に好かて、ドコに行っても、得に何かに困るような事はないんだ』  「…人当たりも、愛想も良い…」  『うん!』  「ってか、それだけ聞いていると、直くんって、随分な人たらしに聞こえてくるよ…」  『アハハハッ……確かに…しかも、本人自覚なしだから余計に誤解が生じる感じ?…かなぁ……』  誤解…  『サキも、少し似てるとこあるけど、サキの場合は、親切心で直の場合は、ただの世話焼き。それに乗っかるヤローが、居るからこじれるんだよ』  してあげたい。支えてあげたい気持ちに誰かを、図に乗らせたつもりはない…  “ サキは、一人で…何でもできちゃうし…私なんって居ても、居なくても、変わらないでしょう? 必要ないって感じ? それに…気持ちとか、重いのイヤなの… ”  迷惑ならその都度。  言って欲しかった。  “ 誰に対しても、良い人演じちゃってさぁ…そんなに人に好かれたい? 何かもう。胡散臭くて無理。信用できなくなっちゃった。それに何でも出来るサキと、比較されるのも…イヤなの!”  “ 私だって、頑張っているのに… ”  …だっけ?  最後の言葉。  『サキ?』    白昼夢って、こう言うやつを言うのかな?  慌てたように心臓が、バク付いた。  『お~い。サキ? どうした?』  当て付けなのか、それとも他に男が出来たのか、当てはまる理由をこじつけて無理にでも別れたがっているのは、分かっていたから。惨めったらしく追究はしなかった。  酷い振られ方をしたと自分に言い聞かせて、追わなかったのも僕だ。  それでも、傷は浅いようで…  くっきりと痕を残した。  必要いらないなんって、言ったつもりはないけど、大切にし過ぎた自覚はある。    “ 過保護過ぎるのも嫌いなの。監視されてるみたいで…なんか、イヤ ”  はぁ…  また白昼夢の続きかよ。  ホント。  他に好きなヤツが出来て、飽きられたのか、二股されたかは、微妙だけど…  過保護過ぎって、突き放されるぐらい。  束縛していたのなら。  またショックが、ぶり返しそうだった。  あの時は、真冬で…  風邪でも引いたかってぐらい。  凍えるように身体が、冷えきった。  マジで、一週間ぐらい立ち直れなかった。  年末年始の休みにぶつかったから。実害はないけど…  『なぁ…マジで、サキどうした?』  様子を伺う吾住の声で、我に返った。  『取り敢えず。直本人は許可取ってるから。連絡先送っておくな…』  変に動揺して、気を遣わせたかも知れない。  ただ吾住は、そう言うところを分かってるいるのか、勘がいいのか…  上手く察してくれる。  「で、直くんは、今日のいつ頃着くって?」  『昼過ぎじゃねぇ? 今、アイツ。コンビニで荷物送るって、駅前のコンビニに立ち寄ってんの。もう直ぐ出て来ると思うよ。オレも、昼過ぎに面接あるし。ホント就活生って大変だよ。なぁ…サキの所で雇ってくんねぇ? いやマジで…なんかこっちでの就活上手く行かなくてさぁ…』  「珍しいな…愚痴なんって…」   『いや…サキだって経験あるじゃん? 今みたいになるまで色々あったって、聞いてるからさぁ…』  「まなぁ……そん時は、相談ぐらいにはのるよ」   『心強ぇー! 取り敢えず。直が、電車に乗った頃にまた連絡入れるよ』  「分かった。こっちに来る頃に…駅に行ってみるよ」  『うん。直に伝えとく!』  仮に直くんが、空元気と言う状況なら…  どう接しようか?  人知れず落ち込んでいるとか…    そっと、しておくべきかな?  “ 過保護すぎ… ”  忘れようとしていた声が、冷たく傷に染み込んでは、渇いていく。  その繰り返し。 2.  目的地の名前は、ブレッザ・ラ ボ・ファームと言う所で...  ブレッザは、イタリア語でそよ 風を意味するらしい。  訳すと、そよ風の実験室...  子供会の青空教室を、思い出すなぁ...  でもって、出発日は急だけど、 今日にした。  俺の事情が、事情なだけにしばらくは、身を隠してフワ男とアホから身を守れとの助言を、吾住からは念押しされたからだ。  ついでに…  角方方面からの友人知人達からも、そう助言を貰った。  持てるだけの荷物を大きめなり ユックに詰め込み。  それ以外の物は、昨日の内に段 ボールへ押し込めた。  俺の連絡先は、吾住を通して速川さんに伝えてあるそうだから。  問題は、無さそうだ... と信じたい。  「まぁ... 行く場所の名前を知っているから。行けば何とか、なりそうだけど...」  「アイツなら。向かえに来てくれるって」  それは、気が引ける。  「何で?」  「いや... 知らない人だし...」   いくら何でも、雇い主でしょ?  「サキって、マメでそう言うヤツだか。頼れって、それに送った段ボールも、着払いにしたって怒んないよ」  吾住の口振りだと、着払いにさせた事ありそうだな...  「そ... そこは、礼儀としてダメだろ?」  申し訳ない顔の俺とは、対象的に吾住は相変わらずに、あっけらかんとニヤついているけど、直ぐに真面目な顔付きに表情を変えた。  「お前さぁ...他の誰かを頼れるようになれって... オレとお前の場合は、付き合いが長いから。なぁ~なぁ~になるから察せるけどさぁ...」  吾住とは、気が合うと言うか... 素で話せて、素で居られる数少ない友人だ。  無論。頼りになるし。  俺も、吾住から今のように頼られることもある。  よく話すようになる前から吾住の存在は、知ったし。  ドコから見ても、目立ってた。  話しも面白いしで、本当に男女共に人気があって、取り巻きみたいな渦の真ん中にいる感じで、中学に入学したての の頃は、スゲーヤツが居るもんだ。  が、最初に感じた吾住の第一印象。  中学では、挨拶するぐらいの知り合い程度で、まさかたまたま親に薦められた高校に受かって入学して、自分のクラスにいざ入ったら。  吾住が居て、目が合った時の互いの驚いた顔は、アホみたいに間抜けだった。  ただ俺と違 って吾住には、志望大学に向けての高校受験だったこともあって、意外に真面目なヤツなのだと聞いて見る目が変わった。  でもまぁ...  ドコに行っても、吾住は自然と目立つヤツは変わらなくて、同じクラスで同じ中学出身なこともあり。俺まで自然と目立ったりで困ったこともなくはなかったけど、それでも十分に楽しめた高校生活ではだった。  あの頃が、一番良かったみたいなセリフは、さすがにまだ早いかなぁ...  「ったく。何をニヤニヤしてんの? 本当。お前ってさぁ...昔からそうだよな... なんって言うか、鈍感で鈍臭い。で... 何かあると...何も無かった風に本音を隠すって言うか、押し黙るって言うか...」  「そう。かな?」  「そうだよ。だからさぁ... 今回のことも含めて、ダンマリを決め込む前に何 でも話してこいよ。で、オレでも、これから世話になるサキにでも、頼れ!」  「ありがとう」  何かある度、こんな感じに吾住達が、慰めてくれる。  多分。吾住達には、慰めるとかそんなつもりはないかも知れない。  けど、そんな優しさが、嬉しい。    電車の時間が、近づいてくる。   「じゃ。行ってくる!」  「うん。気をつけて行けよ。後、連絡寄こせよ!」  目立ちまくるぐらいに手を大きく振って、見送りをしてくれる吾住の姿には、笑ってしまった。  電車に乗り込み席に着くと、スマホに吾住からのメッセージが届く。  《サキには 予定通り着くって言っとくな! あと迎えに来てくれるってさ》と。  電車から見える街の景色は、次第に緑が色濃く増えていき。遠くに見えていた山並みが間近に迫っていくようで、青い稜線がはっきりとした輪郭や木々に変わっていくのが新鮮で、漂う空気感が、街のいそいそとした慌ただしい雰囲気を、どこか懐かしくスローに変えていく。  降りた駅は、小さな駅舎で駅構内には売店があって、地場産の野菜や惣菜を売っている売店まであった。  物珍しさに近付いてみる。  あのパックに入った味ご飯。  美味しそう。  お昼は、まだだし…  と、思わず買ってしまった。  ホクホクした気持ちで、駅舎外の街路樹下のベンチに座り買ったおにぎり頬張る。  細かく切られた具に味がしみ込んでいてお米のモチモチの食感に、かなり満足してしまった。  駅前は、交通量もそこそこあって商店街も近いからか、まばらだけではあるけど人通りもある。  ついさっきまで、目にしてた。  大勢…?  人混み。   騒がしい…  あっ…  落ち着かない感じ。  皆何か急いでいる。あの感じに当てはまらない。  路線を二度程乗り継いただけで、こんなにも雰囲気って、変わるもんなんだね。  上手くいえないけど、空気が違う。   澄んでいる。  正直、ここでやっていけるか不安はある。  知らない土地だし。  食べ終わったパックを膝に置いてボンヤリと空を見上げる。  時刻は、2時をすぎる頃だった。  3.  駅のロータリー広場から直結したパーキングに車を停め数歩あるいた先の木陰のベンチで、ボンヤリと空を見上げている。少しあどけなさが残るカレを、僕は見付けた。  吾住から。コレが直だと送られてきた写真で顔は、分かっていたけど、どう声を掛けようか?  そんな風に近付いて行くと向こうも、僕の存在に気付いたのか、ゆっくりと振り向いてくれた。  「あっ…えっと…速川 サキさんですか?」  直くんは、膝に置いておいたトレーを持ったまま…  「はじめまして、大沼 直って言います! しばらく間宜しくお願いします」と、頭を下げた。  吾住の知り合いだと聞いたときは、同じようなタイプの子かと思ったけれど、通話越しに聞いた声は、しっかりとした印象が残った。  本人を直接見たら。真面目そうな印象が強かった。  “ こんな子が…ねぇ… ”  一通り吾住からは、直くんに付いて状況の説明は受けた。  恋人に二股されて…その相手が、バイト先に乗り込んで来て騒動を、起こしてしまい。辞めさせられた。  “ アイツさぁ…無自覚に尽くしちゃうんだよ。好かれようとか、よく思われたいって、だけで…下心とか無い…ただ相手が、喜んでくれると、幸せな感じになる…的な? ほら。サキも世話したがりだけど…サキの場合は、行動と発想が、略オカンじゃん。だから。まぁ…なんって言うか、直は…手は掛からないし。教えた事は、忠実だし。分かんねぇーことは、ちゃんと聞いてくる。そんなヤツだから。しばらく見守って欲しい ”  世話ではなく。   見守って欲しい。   それだけ吾住は、直くんを信頼していているのだろうか?  取り敢えず。見守るってことは……  どう言うことなんだ?  吾住よりは、手が掛かりそうじゃない。  アイツは、基本的にだらしない。   朝も弱い。   仕事好きすぎてペース配分を見や誤りボロボロになる。   今だって誰かの面倒見てる余裕なってないはずだ。   吾住も、なんだかんだ世話焼きタイプだからなぁ…   取り敢えず。  「こちらこそ。よろしくね。直くん」  カレは、ニッコリと笑ってこちらを見詰める。  人懐っこそうな屈託のない笑顔が、印象に残った。  今日の夜にでも、落ち着いた頃合いを見計らって大丈夫そうだと、吾住に連絡を取ってみよう。    
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