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情事後、
いつも甘いのは空気じゃなくて口の中。
ベタつく身体をシャワーで洗い流しサッパリしたら、下着とズボンだけ身に着けてベッドサイドにもたれるように座る。目の前のローテーブルには、一口サイズのチョコレートがたくさん入った袋。その中から一つ取り出す。キャンディ包みされたそれをクルクルと開けてチョコレートを口に放り込んだ。
「やっぱり疲れた時は甘いもんだよな~」
「そして甘いもの食べたら、塩っぱいもの」
その言葉と共に、風呂場から同じ格好をして出てきたお前がポテチの袋を片手に隣に座る。
「分かってる〜」
俺は笑いながらポテチを受け取ると何枚か摘み、甘ったるい口の中に放り込んだ。
「甘い、塩っぱい、甘い、塩っぱい…無限ループだよね」
お前の言葉を聞きながら、ポテチが消えた口内にコーラを流し込む。
「ジャンクの極みだな…管理栄養士目指してるお前がこんな食べ方していいのか?」
挑発するようにニヤリと笑うと、お前はしたり顔で「毎日じゃなきゃいいんだよ」とチョコレートを口に入れた。
「知ってる?」
「ん?」
「こういうのって、エンプティカロリーって言うの」
「エンプティカロリー?」
「そのまんまだよ。『空のカロリー』身体の為になるような栄養素が殆ど含まれて無いの」
俺は目の前のローテーブルの上にあるポテチの袋の裏側を見た。
「ね?殆ど炭水化物と脂質でしょ?」
「確かに」
「エネルギーにしかならない。摂りすぎると太る。頭では分かってるけど、『糖質と脂質と塩分』が揃ったジャンクスナックは中毒性があるから―…」
「中毒性、ね。毎日じゃなくていいけど、定期的に無性に欲しくなるし完全に絶つことはできないんだよなぁ」
「ドーパミンって知ってる?」
「聞いたことある。何だっけ?」
「脳内麻薬。快楽物質」
「うわ」
話しながらポテチを摘み、チョコレートを食べ、コーラを飲むローテーション。
「多分チョコレートとポテチを交互に食べるとドーパミンが分泌されるんだろうね。快楽が得られるって脳が学習すると、その行動を繰り返すようになるんだって」
「賢いんだか、愚かなんだか、素直なんだか」
隣でお前も、同じようにポテチとチョコレートとジンジャエールをローテーションしている。
「ポテチとチョコレート、まだあるの?」
「買い置きしてねぇよ」
「無くなったら終わり?」
「また買ってくる。脳が学習してんだろ」
「そうだね」
賢いんだか、愚かなんだか、素直なんだか。
ドーパミンが分泌されてなかったら、多分お前は隣にいない。
大学の食べ歩きサークルで一緒になった。
お互い学部と学科が違うからあまり会わなかったけど、三年生最後のサークル活動で一緒になった時に食べ物の好みが一緒だと分かり、意気投合した。
しかしすぐ四年生になる。就活や試験勉強がありサークルで顔を合わせる事は無く、都合がついた時に二人で気分転換がてら食べ歩きに行った。
パンデミックのせいで、食べ歩きできなくなって。
気になっていた店で料理をテイクアウトして……確かタコスを食べていた時だ。甘いレモンサワーと一緒に。しょっぱい、甘い、しょっぱい、甘いのループにハマってしこたま飲んで、気付いたら酔った勢いでお前にハマってた。
お互い恋愛感情が生まれた訳じゃない。
嗜好が一致しただけ。
繰り返されるドーパミンの分泌。学習する脳。
賢いんだか、愚かなんだか、素直なんだか。
四月になればお互い違う場所で就職して、多分もう会わない。
エンプティカロリー、
何も残らないけど。
ドーパミン。
別名、幸せホルモン。
一時的な幸せが、そこにはある。
だから多分、俺はポテチとチョコレートとコーラのループから抜け出す事はできないだろう。
「もっかいする?」
「勿論」
脳が学習してんだろ。
ニヤリと笑い、俺はお前の唇を塞いだ。
おわり
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