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「さーいーたーさーいーたー♪ちゅーりっぷーの♬」
「その歌に出て来る花の色。赤、白、黄色っていうでしょ?
花言葉は順番に『愛の告白』『失われた愛』『望みのない恋』なんだって。
子どもの歌なんだからもっとハッピーな方良くない?」
「いっちねーんせーいになったーらー♪
いちねんせーいになったーらー♬」
「その歌、100人友だち出来たら富士山でおにぎり食べたいとか言ってるけど、自分も含めたら101人になるのよね」
「ちょーうーちょー♬ちょ」
「それ、二番はすずめが出てくるのよ。知ってる?」
ある日の公園のベンチ。
一人で歌を歌っていると、知らない女の人が突然やってきた。
取りあえず知らないふりをして歌い続けたが、
その歌にまつわるうんちくを食い気味に語ってきた。
ここでやっと確信がもてた。
多分この人は、今日帰りの会で先生が言っていたフシンシャだ。
『歌を歌っている生徒に対して、
訳の分からない言葉を言いながら絡んでくる女性がいると、
学校に連絡がありました。皆さん気を付けて帰ってください。』
確か、そんなことを言っていた。
実際にクラスの男子が被害に遭ったらしい。
そして、今私が公園で一人歌っていた所、
こうしてのこのこと現れたという訳だ。
目の前のフシンシャさんは不思議そうだけど嫌そうな顔でこちらを見る。
「逃げ出さないの?」
「にげないよ。」
「他の奴らは大体2曲目には
『なんだよこいつキモイんだよ!』
『ママ~~~』って逃げ出したわよ。」
「ださいね。」
「いや言い方。同級生なんでしょ。」
「まぁね。別に仲良くもないし。
それにわたしにはにげる場所。ここしかないから。」
そう。私は家に居場所はない。
足音を立てたらママに殴られる。
お風呂に入ろうとするとパパに覗かれる。
家には自分の部屋もない。
仕方なくトイレに長時間入っていたらママにドアを蹴られた。
真夏なのに服は長袖しかない。
腕の傷を隠せるから。
時計をちらっと見ると、もう夕方の5時。
帰らないといけない時間だけど、
帰るのが怖い。帰りたくない。
少しでも気持ちを紛らわせようと、
私はフシンシャさんを無視してまた歌い出した。
「どんぐりころころ♬どん」
「続きは『どんぐりこ』じゃなく『どんぶりこ』なのよ。」
「しってるよ。」
「なんだ。残念。結構間違われるとこなのにね。」
「だってこの歌、きらいだから。」
「へー。こういう歌に好き嫌い自体がなかったわ。
何で嫌いなの。」
「だってこの歌、ジブンカッテだよ。」
「自分勝手?」
フシンシャさんは目を少し丸くした。
そんなこと考えたこともなかったという様な顔だったので、
私は思ったことを何も考えずそのまま口に出した。
「だって、どんぐりが勝手に池にハマって、
それを気にかけたどじょうさんが声をかけてくれたんだよ。」
「どじょうが出てきてこんにちは~ってね。
それくらい知ってるわよ。」
「それでどんぐりも喜んでいっしょに遊んだくせに、
けっきょく最後は『やまがこいしい』って
どじょうさんを泣いてこまらせるんだもん。
ようがすんだらポイだよ。」
「なんていうか、面白い考え方する子ね。」
フシンシャさんは眉毛を片方だけ下げた。
変なものを見る目はしたかもしれない。
だけど、否定はされなかった。と、思う。
いつもこういう話をすると、
子どもらしくないとか、
可愛げがないとか言われるけど、
フシンシャさんの言葉はイヤな気持ちにはならなかった。
私はその気持ちが何だか暖かくて、
ついこんなことを聞いてしまった。
「うたをうたってれば、ずっとフシンシャさんは隣にいる?」
「いないわよ。アタシだって暇じゃないんだから。」
「帰っちゃうの?」
「そりゃね。」
「わたし、帰る場所ない。ここにいてよ。」
その言葉を聞くと、フシンシャさんは唇を少しキュッとした。
そして、初めて目と目がぱっちりとあった。
「じゃあ、仕方ないから手は貸してあげる。
好きな方を選びな。
親の元に戻るか、このまま親から逃げ出すか。」
「にげだしたらどうなるの?」
「親には一生会えないかも知れないけど、今の状況は変わる。
良くも悪くも、ガラッとね。
逃げ出す手伝い位はしてやるわよ。」
「フシンシャさんの所にいかせてくれるの?」
「馬鹿いうんじゃないよ。アタシ、ガキ大嫌いなの。
警察よ、警察にいくの。
一応、夜中のあんたの泣き声とか、
家の窓から見えた暴行写真とかは撮ってるから。」
あぁ、やっぱりそうだよね。
私は、本当は気が付いていた。
知らない人だけど、知ってる人。
「ねえ、フシンシャさん。お姉さんはさ、
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