チビちゃん 散歩いこ!

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 深淵の魔獣、ケイオス。三つの国が協力して討伐隊が発足された。百年前に伝説の魔法使いがなんとか封印した、巨大な狼のような怪物。漆黒の瘴気をまとい、咆哮で衝撃波を生む。  人間の内蔵だけを貪り食う邪悪なモノ。ひとたび腹を空かせたら多大な犠牲が出てしまう。特に子供を好んで食べる。  急に光と闇のバランスが崩れ始め、闇の力が増したことで封印にほころびが見つかったのだ。目覚めてしまう前に手を打たなければいけなかった。結界が張られている状態で倒そうとしたのだが。  炎に包まれたところで、最悪の魔族がケイオスを連れて消えてしまった。闇の力が増したのは、この魔族がそこらを歩いていたからだ。  人々はパニックになった。  ケイオスを眷属にされたら、人類は終わる。世界が魔族との戦争準備をしている真っ只中だったのだが。 「チビちゃんは怖がりだなぁ、なんで人間なんかが怖いんだろう。炎で丸焼けにされたって、別に死なないでしょ」 「どうしてそういうところはポンコツなんですかねあなたは。聖なる炎は効きますよ。光魔法の結界が彼を弱体化させているんです」 「え? 結界なんてある?」 「はあ~、これだから強者は鈍感なんですから。ありますよ、我ら魔族を弱体化させるものが。私も虫刺されみたいな痒み感じますし」 「僕は何も感じないもん」  人間界に結界が張られているのは知っている。魔族が簡単に侵入してこないよう、大昔の魔法使いが守りの結界を張ったからだ。入り込めば魔族にダメージを与え続ける、天才魔法使いが作った究極魔法。  アビスからすれば、蜘蛛の巣くらい何の意味もないのだが。 「間欠泉みたいに魔力が溢れるあなたと一緒にしないでください。その結界に直接縛られていたのだから、この子は特に弱っているんです」 「なんだ、そうなのか。あ、もしかして人間が怖いんじゃなくて、結界が嫌なだけ?」 「その可能性は高いですね」  自分には全く影響がないからわからなかった。アビスは淡々とそんなことを言う。  どんな荒くれ魔族でも、震えながら膝ついてしまうほどの魔力を持つ魔の中の魔。強者でしかなかったため、虐げるということが全く理解できない。虐げている自覚がないからだ。 「じゃあ、壊しちゃえ」  そう言って、フウっと息を吹きかけると。ぱりん、とあっさりと結界が壊れた。その時の衝撃波で近隣の村は全て吹き飛んでしまった。 「あはは、ドッグランができた。チビちゃん、それ行け」  リードを外されて魔獣は走り出す。自分を苦しめ続けた魔法が消え力が戻り始めた。漆黒の瘴気をまとい、草木を枯らせながら疾走する。
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