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その日パニックとなった。
「チビちゃん散歩行こう」
リードを見せると、チビちゃんはキャンキャンと鳴いて(泣いて)逃げ回る。あちこち頭や体をぶつけて大混乱だ。
「落ち着いて」
頭を撫でてやるとやっと大人しくなったが、リードを睨みつけて唸っている。明らかに嫌がっている、散歩に行くことを。
「チビちゃん、運動しないとまんまるに太っちゃうよ」
体を動かさないと筋肉がどんどん縮んで、自力で動けなくなってしまう。適度な運動をさせたいのだが、何度誘ってもチビちゃんは嫌がって暴れる。毎日毎日このやりとりは続いている、今のところチビちゃんの完勝。まだ散歩に行けていない。
チビちゃんは運動が嫌いなわけじゃない、むしろ大好きだ。庭でボール遊びをしているときは自分からボールを追いかけていく。僕がどれだけ遠くに投げても絶対にくわえて持ってきてくれる。
外に出るのが怖いんだ。正確には、人に会うのが怖い。
僕がチビちゃんを見つけたのは暇つぶしにぶらぶらしている時。そこには大勢に囲まれていじめられてるチビちゃんがいた。僕がチビちゃんを助けて連れて帰ったんだけど。
それ以来チビちゃんは外に出るのを嫌がる。また怖い人たちにいじめられたら……いや、いじめなんて言葉では片付かない。
もうちょっとで死んじゃうところだった。
「クゥン」
物思いにふけっているとチビちゃんが僕の足に擦り寄ってきた。おそるおそるといった様子で「嫌いにならないで」って目が訴えてる。撫でるとスリスリしてきた。こんなに優しい子なのに。酷い事をするやつらもいるもんだ、悪いことするといつかバチがあたるぞ。
ショック療法で、行ったら意外と吹っ切れるんじゃないかと一回だけ強制的に連れて行ったんだけど。
「ギャンギャン!」
パニックになってしまった。家での暴れ具合とは比較にならない大暴れ。こりゃいかんと思って急いで家に帰ったら、その後三日間小屋から出てくれなかった。謝り続けた。チビちゃんの心の傷は深かったんだ。これは僕が悪い。
嫌われちゃったかなと思ったけど、僕のことを嫌いになったわけではなかった。でもお散歩用のリードを見るとリードに吠える。庭で散歩でもいいんだけど、やっぱり外を散歩させてあげたい。狭いんだよね、庭。
チビちゃんの頭を撫でながらどうしたらいいかなぁと考えた。
「貴方も懲りないですね。見つけた時どんな感じだったんです?」
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