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「ほーらほら、骨だぞぉ〜」
大好きな骨を出してもついてこない。でも、食べたいのを我慢してるんだって事はすぐわかった。よだれをダラダラ垂らしている。大好物だもんね、この骨。
「お散歩行ったらお肉もあげちゃうぞ」
「キュウン!」
そんな耳ペタンとさせてこの世の終わりみたいな鳴き声出さなくても。でも無茶苦茶迷ってるっぽい。このまま誘惑すればいけるかもしれない。
「楽しいこといっぱいあるよ。いっぱい遊べるし、お腹なでなでしてあげるし。大好きなボール遊びも好きなだけやっていいよ。オヤツも二回までならあげるよ。思いっきり走り回れるよ」
「クゥン……」
「お? 行く? 行く気になった?」
「キュウウン」
「うーん、嫌かあ。あ、チビちゃんあれ何だろ?」
「ワン?」
「えい」
パチン。
素直に後ろを振り返る一瞬の隙をついて首輪にリードをつなげる。ガーン! という顔をしてから暴れる暴れる。まあ、子犬が暴れてもなんの抵抗にもなってない。
散々暴れて疲れたらしく伏せになった。ものすごく嫌そうな顔をしているし、きゅんきゅん悲鳴を上げてる。引っ張っると思いっきり踏ん張って「絶対行かんの構え」になってる。
「注射を嫌がるワンコみたいな反応だね」
「注射よりもすごい目にあったのだから仕方ありませんよ」
「ほらほら、行こう」
踏ん張り虚しくずるずると僕に引きずられていく。残念ながらチビちゃんの踏ん張り程度では抵抗することができない。やっぱり力が弱い、運動不足だ。
「チビちゃんはもうちょっと力が強くならないと。それには走るしかない」
「キャウンキャウン!」
「それはあなたの力が強すぎるんですよ、アビス様」
「ぎゃんぎゃん!」
「ほら、もう外だし。せっかくだから楽しもう」
その日、人々はパニックに陥った。
無理矢理引きずってきたが相変わらずイヤイヤと暴れる。暴れるたびに、そこらじゅうの木が薙ぎ倒され大地が割れる。
「ギャンギャン! ギャオオオオン!」
「ここまで来たんだからもうちょっと頑張ろうよ。チビちゃんがボコボコにされた場所はすぐそこだよ」
「ところで何でチビちゃんなんです。ソレには確か名前があるでしょう」
「知らないよ、人間が付けた名前なんて。子犬みたいだから、チビちゃん」
「私より二回りは大きいし、凶悪な顔してますけどねえ」
「そりゃ魔獣だもん」
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