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うらにゃん! うらにゃん! 笑顔でピース!
うらにゃん! うらにゃん! にゃんだふる!
にゃんでラブリー ラブリーにゃんだほー!
みんなにゃんだふる メロメロにゃんだほー!
狙っているよみんなのハート どきどきわくわくにゃんだほー!
みんなもどきどきにゃんだほー! みんな気になるにゃんだほー!
セリフ:でもね、恋愛はNGなの だって”うらにゃん♡にゃんだほー!”はみんなのアイドルなんですもの にゃん♡
うらにゃん! うらにゃん! 笑顔でピース!
うらにゃん! うらにゃん! にゃんだふる!
「はい! いったん中止!」マネージャー兼演出兼プロジューサー兼社長の中島景子(芸名:星宮れもん 元有名アイドル38才独身)の声が稽古場に響く。
「今夜はサタデーナイトフィーバーなのよ。それに昨日ような失敗は許されないわ。もう少し自覚して」
「はい!」
「いい? えっと、先ずはマリン。もう少し動作を大胆に! とくにセンターに来るときはみんなあなたを見ているわけだから過剰なぐらいでいいわ」
「はい!」白波マリン(21)。九州出身の歴史女子。メンバーの中ではショートボブが似合うおねぇさん的な存在だ。白波を名乗ってはいるが「しょちくれ」ではない。イメージカラーは白。
「次。コハネはもう少し声を張って! ソロパートはあなたが主役なんだから声張ってね」
「はいですの!」碧川コハネ(18)。まもってあげたいフワフワ系女子。まきまきフワフワな髪型で愛らしい彼女はみんなの妹役だ。その愛らしい見た目とはうらはらにそのキャラ造形は徹底している。素の彼女を見た者はいない。イメージカラーは緑。
「逆にヨシノはもう少し声を押さえた方がいいわね。オラオラ系のキャラを全面に出したいのはわかるけど、他のメンバーのソロパートのときぐらいは控えめにしていいわ」
「っしゃー!」黄瀬ヨシノ(19)。ショートカットで耳には無数のピアス。典型的なオラオラ系女子。一人称は「オレ」。語尾は「~だぜ!」。ホントは難関大学に通っているエリート。イメージカラーは黄色。
「ウサギ―――は特にない、かな」
「はい」紅ウサギ(19)。170cmの長身にしてストレートの長い黒髪。スラッとした洗練されたスタイルは同性から見ても惚れ惚れする。天使系絶対的美少女にして我ら「うらにゃん♡にゃんだほー!」のリーダーだ。イメージカラーは紅。
「最後にルナ! あんた、昨日の醜態を忘れたの! 振り付けはうろ覚えだし、音程もとれてないわよ!」
「へ、へい……」あ、しまった。噛んでしまって「はい」が「へい」に変換されてしまった。
「―――ってやんでぇ~。って江戸っ子じゃないっての! 少しはマジメにやりなさい!」
ははは。と笑いが起こり、企図せずひとときのやすらぎを提供してしまう。
「は、はい……」マジメにやってますけどなにか? といったら怒るのだろうか? いや、わかってます。わかってますよ。
「ちょうどいいから、少し休憩。30分後に再開するからさっき指摘したところは改善よろしく」わたしのお陰で休憩になる。
「陽子さん―――いや、ルナ先輩大丈夫ですか?」ペットボトルのミネラルウオーターを持って紅ウサギがルナに駆け寄る。
「え? ああ、うん、大丈夫だよ? ほら、最近はいつものことだし、情けないけどさ」
「私、先輩ががんばっているの知ってますから。これどうぞ」ウサギはペットボトルをルナに差し出した。
「ああ、うん。ありがと」
「私、向こうで練習してますので―――」ウサギはペコリとして鏡の前で振り付けチェックをはじめる。その熱心さが彼女の成功の秘訣だと思う。
「陽子さん―――」白波マリン。本名菊池みゆき。メンバーの中では比較的年が近く、同じ九州出身のため本音トークがしやすい。
「あ、うん。みゆき、どした?」
「最近調子悪そうですね。なんかありました?」
ああ、それね。いやさ、年も年だしさ。みんなみたいに動けなくなってきているわけよ。そんな年でもないって? そりゃあさ。まだ24だし、実際は若いよ。でも、最近は夢を素直に追えなくなっているんだよね。抜群の才能も、愛らしい見た目もない。普通の女なんです、私。それにその内、おばさんとか呼ばれたりするんですよ? いや、それはいいよ。別に心の持ちようだしさ。相対的な話でもあるわけだし。
それよりさ。ホントにこのままでいいのかってことよ。私って別に何か資格があるわけでも、学歴があるわけでもないし。このまま、芽が出ないままのアイドル(仮)とかってヤバくない? 最近はさ、地元の同級生なんかも結構結婚とかしててさ。ママになっている人もいるわけ。はいはい、わかってます。田舎だから早いって、言いたいんでしょ? でもさ、目指しているそのアイドルってやつも基本的には若い間だけなのよ。じゃあ、私って若いのかってわけ? それを静かな部屋で独りで考えているとさ、しみじみときちゃうんだよね。
まぁ、たぶんこれが不調の理由だと思う。
なんてことは言えないので、「そうかな? 最近ちょっと暑いからさ。体調崩すよねぇ」とか言ってごまかす。
「そうっすか? まだ5月ですけど」
「そう? いやぁ、結構暑かよ?」そう言いながらルナは窓を開ける。
すると、桜が散った季節ではあるものの、少し冷たい風が入って来た。
「ほら、陽子さん、まだ寒いですけんって―――」白波マリンが急いで窓を閉める。
「そうかな? ごめんね」ルナはウインクしながら両手を合わせる。
「―――別にいいっすけど」マリンは憮然とした態度だ。
その冷たい風が私の心で吹き荒れているのだよっと言えたらきっと楽なんだろうな、とルナは思った。
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