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「今日も盛り上がっていくよ~!!」
そう言うと近未来的なインカムを付けた彼女は左手を腰に当て、右手で頭上を指さし、高く掲げる。
これが彼女のパフォーマンスが始まる合図―――通称”唯我独尊ポーズ”
そして幾重にも重なったスポットライトがステージ上の彼女に集中し、その存在を浮き立たせる。
熱狂した歓声は決して鳴りやむことはない。
しかし、彼女はそのポーズのまま、じっとして動かない。その表情は俯き、影になっているためうかがい知ることはできない。
待っているのだ、彼女は。この熱狂が静まるのを。
彼女のその意図を理解したかのように少しずつ会場の熱気がおさまっていく。いや、おさまっているのではない。その内側に隠しているだけなのだ。
ステージを煌々しく照らすライトも少しずつ暗くなってきた。
会場に存在する光は彼女のイメージカラーである目が覚めるような蒼のサイリウムのみ。その光は蒼い宇宙のようにどこまでも続いている。
この静寂。
さきほどまで熱を帯びていたとは思えないほど不自然な空気。
ただ一人のアイドルが立つステージ。
静まり返った会場からは物音ひとつ聞こえない。
原始の地球、いや宇宙とはこのような静謐につつまれた空間だったに違いない。
しかし、それはビッグバンとともに爆発する。
”熱狂”という熱を帯び、動き出すのだ。
今はその前の静けさ。
嵐の前の静けさ。
「―――」インカムを通して彼女の呼吸が微かに聞こえて来る。
次の瞬間―――
「―――いくよ! ”とどけ! ハニー♡テラーボイス!”」
わああああああぁぁぁぁぁぁぁぁpkmころrkp!!!!
彼女が起こしたビッグバンに合せてステージ上の照明が目を覚まし、再び彼女の絶対的アイドル性を照らす。
それとともに会場のボルテージはマックスになる。もはや歓声なのか悲鳴なのか判別ができない。
宇宙が生まれたのだ。
ここでは彼女こそが宇宙であり、唯一の真実。
これが今世紀最初にして最後のアイドルと言われる絶対的存在――蒼月ルナのステージである。
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