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競技かるた。小倉百人一首の百枚の札を五十枚使い、自陣と敵陣に二十五枚ずつ札を分けて並べ、読み手が上の句を読み上げたら、その下の句の札を取り合う競技。
「最近は漫画の題材にもなってたよ」
携帯の検索結果のような説明をしながら、若菜と雅は真夜中の廊下で歩みを合わせる。
「へーなんかお婆ちゃんとかがやってるイメージだった。若菜ちゃんはその競技かるたってヤツやってたんだ」
「うちのお母さんが地域のかるた会に入ってて、私も何度か連れられて行ってたの。西田先生もその会に入ってるから…」
だから定時制高校に入る事になったと、余計な言葉を若菜は飲み込んだ。
「でもさ、人集まる?私は若菜ちゃんが居るからなんとなく来たけど、クラブやる子はみんな運動部行くらしいじゃん」
「マイナーだから、あんまりかも」
「まぁ私は二人きりでも別に良いんだけど。仕事あったら行けないからなぁ…若菜ちゃん一人にならないかな」
まるで妹を心配する姉のように若菜のセミロングの黒髪を雅が撫でる。
どうしてここまで気に掛けてくれるのだろうか。
その理由はいまだにわからないままではあったが、雅が付いていくと申し出てくれて、若菜の心細さは救われていた。
競技かるた部は全日制の茶道部が使っている和室を借りてやる事になっている。
入部希望者はそこに今日一同に集まるという事らしい。
西田の指定した時間通りに部室に到着すると、部屋の前にはすでに人影があった。
「おっ、速水じゃーん。遅刻魔もかるた興味あるんだ!」
見知った顔を見つけた雅は、少し離れた速水の方へと駆け寄る。
一方の若菜は思わぬ顔に咄嗟に動けずにいた。
いつも気怠げに教室にやってくる速水と競技かるたとが、どうしても結びつかず混乱していたのだ。
どうしていいものかと、しばらく遠巻きに美男美女を眺める事になった。
「いやー遅くなったな。って、結局ウチのクラスの三人かぁ。とりあえず中入るか」
若菜が呆然と二人を眺めている内に、西田はやってきて部屋の鍵を開ける。
部屋の中に入ると小上がりになっており、靴を脱ぐスペースがあった。
襖を開けて奥に入ると八畳ほどの畳が敷かれ、掛軸まで飾られている。
座って座ってと西田に促されるまま三人は畳に座った。
「さて、本当は自己紹介してもらう予定だったけど…こりゃ要らないな。兎にも角にも、今日からこの三人が夜桜かるた部員です!」
西田はそう言って大袈裟に拍手をして見せた。
「私は若菜ちゃんについて来ただけで、夜の仕事入ったらパスね」
雅は長い睫毛で西田を見据えてきっぱりと言い放ち。
「体験入部だけしたら多少の遅刻は許してくれるって話だよね?」
速水はいかにも不満げに西田を睨み付け問い掛ける。
若菜はその様子を正座で不安げに見守る事しかできないでいた。
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