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第三話 最強は姉
そして数週間がたった。
加藤――これからは明と呼ぼう――は、まめに連絡してくる。
ヒマなのかもしれない。
『ぬいぐるみ買った』
『コラボカフェでメシ食った』
『このアクキーかわいくねえ?』
なんだか、彼女ができた気分だった。
いちいち送ってくる写真がかわいいのである。
イケメンなんだから自分も写せばいいのにと思うが、明の趣味は学校のヤツらには秘密なので、全部一人で行っているのだろう。
……イケメンなのに、ぼっちか。
なんだか、可哀想になった。
俺が、なるべく優しい返信を打っていると、
「アンタ、彼女でもできたの?」
と、姉が後ろからスマホをのぞいてきた。
「モラハラ反対」
「うっさい。弟に人権はねーわ」
酷い言いようである。しかし、姉のおかげで明と付き合えているので、強くは反論できなかった。
「で、彼女?」
しつこい姉である。
「いねーよ。なんで?」
「アンタ、急にスマホいじるようになったから」
唯我独尊を貫いているようで、余計なところは観察している姉である。
「あー、あのイケメンまた会いたーい!」
ひよこのぬいぐるみを抱きしめながら、叫ぶ姉。
俺は、こいつだけには絶対再会させまい、と思った。
だって、取られたら嫌だったから。
それから数日後。
俺が家に帰ると、
明と姉が仲良くお茶を飲んでいた。
人生で最も見たくない光景だった。
「……なんで明いるの?」
「ちょっとー! 公大、イケメンが友達ならすぐ教えなさいよー!」
「…………」
明が、目で限界を訴えていた。
今にも倒れそうである。
「で、明くん」
すでに名前呼びの姉。
「どこ住み? 彼女いる? 童○?」
「明、ちょっとアイス買いに行こうぜ!」
俺は、無理矢理明を外に連れ出す。
「あー! アイス買うならダッツ買ってきてー!」
と姉のどこまでも厚かましい叫びが聞こえたが、無視することにした。
俺たちは、近くの公園に避難した。
「明、生きてるか?」
「死んでる……」
明は、見事に生気が無かった。ただ、イケメンは青ざめてもイケメンだった。
俺は明に、ジュースを買ってきてやった。
「飲め。炭酸平気か?」
「たぶん……」
明は、少しずつのどを潤した。……飲み方がなんだかエロいと思った。
「悪かったな。姉貴の相手させて……」
「公大」
突然、明が抱きついてきた。
「どうした!? 明!?」
「しばらく充電させて……」
充電って。明は相当まいっているようだった。
公園は無人で、人目は気にしなくてもいいけど……。
明のいい匂いがまたして、俺はどうにかなりそうだった。
なんだろう。石けんかなにかの匂いだろうか。
理性的に考えようとしても、自分の心臓の音がうるさい。
「……ありがとう」
しばらくして、明は離れた。
おしいと思う自分は、おかしいのだろうか。
そんな疑問の答えは、学校の授業では教えてくれない。
「気をつけて帰れよ」
「ああ」
そしてふらふらと、明は家に帰っていった。
しばらく俺の家には来ないだろうな、と思って、
姉をうらめしく思ってしまった。
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