第四話 お決まりのターン

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第四話 お決まりのターン

 突然だが、同じクラスに大倉夏彦という男がいる。  質実剛健、公明正大、一日一善という男である。最後のは少し違うかもしれない。  見た目は、まあ、ゴリラである。筋肉質で、顔も悪くはないが多少いかつい。  女子にはあまり好かれない。たまに『あの筋肉が好きー!』という奇特な女子がいるが、大抵他の親切な女子に止められる。  なにが言いたいのかというと。  あまり、敵にはしたくないタイプの男だということである。 「田山、ちょっといいか」  昼休み。俺は大倉に呼び出された。  体育館裏までついていく。夏の日差しが、まぶしかった。 「大倉、なんだよ」 「これ見ろ」  大倉が差し出したスマホには。  俺と明がひっついている写真が写っていた。 「付き合っているのか?」 「いや……、これ……。よくできてるなー」 「俺が見て撮影した写真だ」  万事休す。 「俺は実は前から加藤が気になっていてな」  マジかよ。男子からも人気あるのか、明。 「この写真をばらまかれたくないなら別れろ」  そう言われたら。  離れるしかないじゃんか。  だって相手が大倉なんだから。  大倉は、有言実行の男でもあるのだ。 side:明  公大から連絡が来なくなった。  教室でもなんだか避けられている気がする。  代わりに、なぜか大倉という男子がよく絡んでるようになった。  ……まったくもって、お呼びじゃなかった。  おまけに、大倉は俺と公大がくっついた時の写真を持っていて。  俺に付き合えと脅してきた。  ああ、公大は、だから俺を避けていたんだな、と思った。  大倉は、いきなり家に誘ってきた。  いかなきゃ、またおどされるんだろうな。  そう思って、俺は大倉の自宅までついていった。  俺は、よく人に、芯がないと言われる。  だって、俺は、よくできた『お人形』だから。  クラスのヤツらだって、街に出たときにナンパしてくる女達だって、  俺の見た目にしか興味が無いから。  だから。  俺がかわいい物が好きなのは。  仲間意識みたいなものかな、と思っていた。  そう思いながら、俺はさして広くもない大倉の自宅のリビングで、水道水を飲んでいた。  麦茶もないのか。  誰もいない家。夕日だけがキレイだ。  そう思っていたら。  大倉が突然キスしてきた。  汗臭い。他にも変な匂いがする。 「やめろっ!!」  俺は、火事場の馬鹿力で大倉を突き飛ばし、逃げた。  気持ち悪い。  気持ち悪い。  気持ち悪い。  俺は自分の家に帰った。  洗面所で、何度も口をすすぐ。  気持ち悪い。  気持ち悪い。  気持ち悪い。  鏡を見ると、酷い顔をしていた。  ようやく落ち着いて、  自分の部屋に帰る。  ――そして、呆然とした。  たくさんのぬいぐるみ。  気に入っているキャラのアクキー。  ピンク色のカーテン。  ――一番気持ち悪いのは。  自分だった。
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