第3話 息吹の心の乱れ

1/1
前へ
/43ページ
次へ

第3話 息吹の心の乱れ

病院の個室ベットにて 心電図の音が響いた。 夜通し看病していた息吹の母親が ベッドの脇で疲れて眠っていた。 息吹は酸素吸入をつけて眠っている。 大きいプールに飛び込んで 深いことに気づかずに溺れていた。 父の隆司は、急いで助けに泳いだが、 応急処置を施しても、意識が戻らず、 急いで救急車をよんで病院に向かう。 生死を彷徨っていた。 どうにか集中治療室にて医師が処置をして 一命をとりとめた。 天井が白くて ポツポツと黒い模様があるんだなと 気づいた。 息吹が目を覚ました。 がさこそとふとんが動くのが分かった 母が目を覚ます。 「息吹、起きたの?」 目をこすって、息吹の様子を見た。 特に苦しくはなさそうだ。 「う、うん。起きた。」 天井近くに ふわふわと透明な姿で浮かんでいたのは 悪魔のクロンズと天使のヌアンテだった。 「息吹、目が覚めたみたいね。  ママが喜んでる。」 「そりゃぁ、そうだろ。  死にそうだったんだから。  でも、あいつは、  プールの中だけじゃない。  呼吸を整える方法教えてやらないとな。  って、それってお前の役割!!  なんで俺が考えてるんだよ。」 「えー?そうだっけ。  なんだって良いじゃん。  そろそろ戻らない?  おじいちゃん怒るでしょう。」 「…ああ、いや、でも待て。」  病室で目を覚ました息吹の前に  小さな男の子が廊下から息吹をみていた。  その男の子の隣には母親らしき人もいた。  病室のドアをノックする。 「すいません。  いつもスイミングでお世話になってます  拓人の母なんですが…。」 「……。」  小学一年生の上島拓人(うえしまたくと)は、  息吹と同じスイミングスクールに  通っている。犬猿の仲だ。  じゃれあって遊ぶこともあるが、  兄弟喧嘩のように本気でいじめられる  くらいだ。  今回の事件も原因はこの拓人が  引き金になっている。 「ああ、どうもいつも息吹がお世話になっています。あれ、拓人くんも一緒だったんですね。どうぞ、息吹の様子見ていきますか?」 事情を知らない母は普通にお見舞いだろうと息吹の方へ近づくように誘導する。 息吹は水を思いっきりかけられて、 苦しくなったこと、足をひっぱられて、 ぶくぶくと溺れそうになったこと。 思い出したくないシーンが頭の中をめぐる。 水の中じゃないのに呼吸が乱れてきた。 息が荒くなって、苦しくなる。 息ができない息ができない。 手足の震えがとまらない。 それでも、気づかない大人たち。 拓人がそばによって心配そうに見るが、  信じられない。 息吹の肩に拓人が触れそうになったのを 力一杯振り払った。 点滴のイルリガードル台に手があたって、 豪快に倒れた。 胸に手をあてて、息よ鎮まれと願った。 周りは騒然とする。 「うわ、やばい。  息吹の呼吸を…」  天井で様子をみていたクロンズが  光宙を引き連れて、病室のベッドの横に  降り立った。  息吹以外、彼の姿は見えない。 「はぁはあはぁはぁ…。」    胸に手をあてて苦しそうにする横で  じっと見つめる。 「な、あ?  あれ?悪魔くんだ。  はぁ、はぁ、はぁ…。」  過呼吸になっていた。  指先が震えている。 「なぁ、息吹。ゆっくり息をするんだ。」 「はぁはぁはぁ、苦しい。  はぁはぁ、はぁ、息できない。  もう、やだ。  こんなんなら、はぁはぁ  死んだ方がマシだ。」  上でふわふわと浮いていたヌアンテが  その言葉に大きく反応して、  息吹の顔の前にどんと座って、  頬を往復ビンタした。   「え? はぁはぁはぁ…。」  さらに往復ビンタした。 「いや、はぁはぁはぁ。  死にそうな人、叩くなよ。  はぁはあはあ…。」 「そんな、呼吸な荒いだけで  死ぬわけないでしょう。」  2人と接してる間の息吹は霊体の状態だ。  息吹の本体はぐったりとずっと布団の中で  はぁはぁ苦しそうにしている。 「息吹、息吹!  看護師さん呼ばないと。」  母は慌ててナースコールを押す。  お見舞いに来ていた拓人と拓人の母は  邪魔にならないようにと  端に移動していた。    呼吸が整わない。  早くどこか行ってしまればいいのに  なぜいるのか  拓人は心配そうに眉毛をハの字にして  こちらを見る。  酸素吸入しているのに、意味があるのか  過呼吸は止まらない。    クロンズは霊体を引っ張り出して、  空高く、息吹を連れて行く。 「クロンズ!!どこに連れて行く気?!  まさかそのままにするじゃないわよね。」  ヌアンテが叫ぶ。 「ちっげーよ。  お前の代わりに仕事してんだよ。  後て俺に報酬よこさないと  神様にリークするからな!!」 「げ、嘘。マジ。  わかった。  報酬やるから、頼むわ。  ポテチでいいよね。」 「お前じゃないんだから。  そんなのいらねーよ。  俺は、休暇だ。お前の尻拭いをしない  時間が報酬だ。分かったな!!」 「はいはいはい。  わかりました。  私が働けばいいんでしょ働けば…。  チッ。」  天使のヌアンテは舌打ちをして、天高く  飛んでいくクロンズの後を追った。  クロンズの黒い翼から羽根が落ちてくる。  腕にはしっかりと息吹の霊体を  つかんでいた。  空に丸くて歪んだ黒い空間が現れて、  吸い込まれるように飛んでいく。  クロンズと霊体の息吹、  ヌアンテの肩には  空宙、微宙が静かに乗っていた。  通り抜けると丸く黒い空間は  一瞬して、元の青空に戻っていた。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加