第5話 水に勝つには…

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第5話 水に勝つには…

黒い翼を持つ悪魔のクロンズの隣にはコウモリの光宙(ひかちゅう)がいる。 息吹を背中に乗せたまま、 指パッチンをした。 すると今度は指先から炎が飛び出した。 「すぅううううーーーー。」 「そうだ、思いっきり深呼吸するんだ。」 息吹は大きく息を吸って、 力いっぱいに息を吐いた。 「「ファイアブレス!!!」」 息吹はクロンズとともに唱えた。 また新しい技を覚えた。 【氷の技:コールドブレス】 【炎の技:ファイアブレス】 これで2つ目だ。 息吹の吐いた炎がスケートで遊んでいたヌアンテと微宙(びちゅう)に当たりそうになったが、ギリギリのところで避けていた。 カチンコチンに凍っていた剣山のような氷や スケートリンクのような広い氷は一瞬にして、溶けていく。 だが、今度は水が少しずつ溜まっていく。 中央にピチャンピチャンと音を出しながら、 集まってくると、元の波が復活して、 目と口と大きな手が復活していた。 「ちょっと待ってよ。  クロンズ!!  復活してるよぉーー。  倒してないよぉ。  また溺れるってぇ!!  どうすんのよぉ。」  ヌアンテは、慌てて、スケート靴を脱いで、  サーフボードをパッと出した。  モンスターを倒す気はサラサラ  無いようだ。  一緒になって  ハリネズミの微宙(びちゅう)も  小さな浮き輪を体につけて  ぷかぷかと海水浴気分だ。 「おい!!仕事しろよ。  また、俺がお前の代わりすんのかよ。」  完璧主義者のクロンズは  怠け者のヌアンテを見ると  イライラしてくる。   「まぁまぁ、のんびり行こうよ。」  後ろ向きに拳をわなわなと震わせて   息吹とともに次の作戦を考えた。 (あとで覚えておけよぉーーー。)  それでもなお、波が大きくなり、  こちらに迫ってくる。  ヌアンテと微宙はぷかぷかと  浮かぶよりかは巨大な波で  すでに溺れかけていた。  クロンズは見てみぬ振りをして、  新しい技を息吹に教えようとしていた。  クロンズは細長い爪を器用に避けて、  指パッチンをした。  指先から少しずつ葉っぱが出てきたかと  思うと一瞬にして巨大な草木が大きく  現れた。  息吹は大きく息を吸って、  力いっぱい息を吐いた。  「「プランツブレス」」  長い長いの木の枝が  葉をたくさんつけて、  森が大きくなるように  巨大な波に迫っていった。  次から次へと伸びて伸びて  天高く草木が広がっていく。    クロンズたちに向かっていた波は  覆い被さるように木々たちに  吸収されて襲いかかることはなかった。  凪が訪れて、心穏やかになる。  ヌアンテと微宙(びちゅう)は  サーフィンと浮き輪をやめて、  帽子をかぶって、深呼吸をして  木々が生える地面に寝転んだ。  森林浴を楽しんでいる。  呆れたクロンズはため息をつく。 「これだからナマケモノの天使は  役立たずだ。  結局やらなくていい俺が尻拭いかよ。  俺はいつまで経っても  地獄に行けないな。  悪魔なのに!!悪魔なのに!!」  息吹の体を揺さぶった。   「落ち着いて!  ほら、どうにかモンスター倒したから  大丈夫でしょう。」 「俺は、モンスター倒す方じゃないの。  本当はああやって、邪魔する方。  ああああーーーー。  俺はーーー、一体何をしてるんだ!」 「……。」  クロンズの行動によく分からない息吹は  首をかしげる。    お決まりコースで  モンスターを倒した息吹の真下には、  真っ黒い異空間が開いた。 「うわ、またここから落ちるの?!  僕、高所恐怖症なんだよぉおおお。」  手を伸ばしたがもう遅かった。  有無も言わずに下に降りていく。  息吹がいなくなった瞬間に、  全て、真っ白い空間にパッと  切り替わった。  まだ森林浴を楽しもうとしている  ヌアンテと微宙(びちゅう)は  何もない真っ白い空間になっても  寝っ転がっていた。  クロンズはあぐらをかいて、  頬杖をつく。  少し泣きそうになっていた。 「ほぉほぉほぉ。  今日もいつも通りじゃのぉ。」  長い白髪で白髭。  白い服に長ーい茶色い杖を  持った神様はボンッと現れた。 「神様ぁ、見てたんなら、  注意してくださいょ!!  この怠け癖。」  クロンズが嘆いている。 「今日も楽しかったわ。  ね、微宙。」 「まぁまぁまぁ…。」    クロンズに怒られるのが嫌になった  ハリネズミの微宙はあまり大きく  反応できなかった。    コウモリの光宙はやっとやることは  終わったと持ってきていた  トマトジュースを  ストローでちゅうちゅう吸っていた。 「そうやって人頼みはいかんよ。  クロンズよ。  確かにお前は悪魔だ。  そして、ヌアンテは天使だ。  怠けるのは良くないかもしれない。  わからないか。  大事なことを見逃していることを。」 「チッ、そんなの知るか。」  顎を手に置いて、ふてくされている。 「まぁ、もっとミッションをこなせば  分かることじゃ。  はい、もちろん、今回のミッションは、  ヌアンテ、おやつ抜きね。」 「え?コーラは?」 「あるわけなかろう。  調子よすぎだ。  あ、お茶は飲んでいいぞ。  体に良いからな。ほほほほ…」 「そんなの飲めるかボケジジイ…。」  ボソッとヌアンテが言う。  神様は少し黙ったまま過ごす。 「明日は、別な男の子のミッションだ。  今日の子とは一味も二味も難しいかもな。  もちろん、息吹はこれからも  見張っていくから覚えておくように。  それと、ヌアンテ!!  調子乗ると、  お前の命が天国に行くとは  限らないことを  肝に命じて置くように。」    神様はものすごく殺気だった目で  ヌアンテで睨みつけた。  背筋がピンと凍りついた。   「…す、す、すみませんでした。」  神様は小声で謝るヌアンテに突然笑顔で  顔を近づけた。  笑った顔で 「次、クソジジイ言ったら  タダじゃ置かないからな!!  その口縫い付けてやるぞ。」  怒った顔よりものすごく怖かった。   「ひひいいいいいぃいい。」  ヌアンテの体は  コールドブレスがかかったように  しばらく固まっていた。  クロンズは立ち上がり、  後頭部に両手をつけて、  口笛をついて喜んでいた。
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