ロープ

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 俺はスマホをいじるのを止め、立ち上がった。きっと良いタイミングなんだろう。もう充分なんだろう。  もうここにはいたくない。外に出よう。    外は日差しが暖かく、風も気持ちが良かった。俺は後ろを振り返った。薄汚れたアパートだ。取り柄は安さだけ。欠点は数え切れない。夜空の星とどっちが多いのか。  親父はよく『ここで金を貯めて、デカい家を建てるぞ』と家族に夢を語っていた。そんな時、俺たちは現実味の無い事を語り、『任せろ。何とかしてやる』と親父は安請け合いして、胸を叩いた。お袋も幸せそうに俺たちを見つめていた。  でも、このアパートが親父のあがりの場所になった。「最期は住み慣れた家に帰りたい。窓からの景色を眺めたい」と死に際の親父は言い、無理にアパートに戻った。そして望み通り、そこで死んだ。きっとマイホームの約束の事なんて何にも覚えちゃいなかっただろうな。  俺はもっと広くて明るい所が良い。アパートから見える景色なんて、しみったれた街並みが見えるだけだ。俺はもっと綺麗なものが見たい。  
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