ロープ

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 ペットショップの中は消臭剤の香りとかすかなケモノ臭がした。不快さは無かった。ガラスケースの中には愛らしい子犬や子猫が戯れあって遊んでいた。やっぱり赤ちゃんは可愛い。けど、こんな俺にも可愛らしい時期があったんだろうか。全く、俺はどこで道を間違えたんだろうな。  ひとしきりガラスケースを見て周り、ペット用品コーナーに足を向けた。  俺の人生を支えるだけのロープはあるだろうか。すぐにそれは見つかった。大型犬用の立派なリードだ。気に入った。  俺は手に取り、レジに向かった。 「おっきなコ、いらっしゃるんですね」と20代半ばと思われる女性店員が話し掛けてきた。 「ええ。人間ぐらいありますよ」と俺は適当に答えた。  「力もありそうですね」 「でもビビりなんで扱いはラクみたいですよ」と俺は返した。「すぐに使うので、包まなくて大丈夫です」 「お散歩、いっぱい楽しんでくださいね」と店員さんは言い笑みを浮かべた。 「ええ。遠くまで行きますよ」と俺は言い、財布から一万円札を出した。  福沢諭吉が俺の事を無表情に見ていた。学問を勤めて物事をよく知る者は、貴人となり富人になり、無学なる者は貧人となり下人となるなり、か。正にその通りだぜ。人の価値は人それぞれだ。  ちなみに俺の価値は500万だ。間違い無い。お袋が俺に掛けた生命保険の受け取り金額だからな。福沢諭吉の500倍だ。そう考えると俺の価値は分不相応に高騰している気がした。
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