ロープ

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 場所は決めていた。近所の公園だ。デカい木もあるし、池もある。ガキの頃はよく遊んだ。智己とどっちが速くジャングルジムのてっぺんに登れるか勝負したっけ。親父も年柄にもなく一緒に登っていた。3人でてっぺんに登って、下にいるお袋を見下ろしたな。あの時は楽しかった。悩みもあっただろうけど、走っているうちに忘れてしまえた。  幸せだったんだな。俺の人生にだって幸せな時期があったんだな。でも幸せはどこに逃げてしまったんだろうな。分かっているのは走ったぐらいじゃ追いつけもしないし、ましてや捕まえられないという事だけ。俺は大きく息を吸い込み、目を閉じた。脳裏にはもう得られない光景が次々に浮かんだ。  そんな時、左手に生温かい感触があった。思わず目を開け、下を見た。
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