ロープ

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 俺は反射的に顔を手で覆った。 「ちょっと、待て。分かったから、やめろ」とハスキー犬に言った。通じる訳もないのに。それに何が『分かったから』なんだ。  言葉が通じたとは思えないが、ハスキー犬は俺の身体から離れた。動き足りないのだろう。周囲をせわしなく動いていた。落ち着きの無い奴め。俺が立ち上がるとハスキー犬は軽く身体を沈ませ、バネのように大きくジャンプし、俺の視界を塞いだ。真っ白なお腹が見えた。 「おおお!」と思わず叫び、俺は両腕を顔の前で交差させて防御した。ハスキー犬は前脚で軽く俺の腕に触れるだけだった。噛みついてくる事も無かった。  そんな調子でハスキー犬は俺の周りをぐるぐるまわり、ジャンプを繰り返していた。途方もない体力だった。さすがに犬ゾリを引く犬だ。  俺が腕を降ろすと『隙あり!』と言わんばかりに飛びついて来た。 「おおっと」と再び声が出てしまった。俺は今度は倒されず、ハスキー犬を抱きしめた。コイツ、可愛いな。俺は顔のまわりや背中なんかを撫でてやった。すると落ち着いてきたのか。ハスキー犬は地面に寝そべった。俺も傍らに腰をおろし、ハスキー犬を撫で続けた。外側は少し硬いが、さらに指を入れた内側の毛は柔らかだった。俺は力を入れてガシガシ撫でた。ハスキー犬は目を細めてされるがままになっていた。
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