ロープ

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 しばらく撫でているとハスキー犬は立ち上がり、俺に向かって短く吠えた。第二ラウンドのゴングのようだ。  ハスキー犬は猛スピードでダッシュし、俺から離れた。しかし、10メートルも行かないぐらいで立ち止まり、俺の方を振り向いた。口には俺のロープを咥えていた。 「あっ!それは俺の!」と俺は叫び、ハスキー犬を追いかけた。ハスキーはその場で軽くステップを踏み、再び走り始めた。  ハスキー犬は俺が追いつけるスピードで走り、俺が近づくと凄まじいスピードで方向転換し、俺の手から逃れた。誇張でも何でもなく、瞬間移動のような動きだった。辺りに砂煙が舞った。  10分もしない内に、追いかけ疲れた俺は地面にへたり込んだ。情けないくらいに息が上がっていた。こんなに走ったのは何年振りだろう。大学?高校?もっと前か?  へたり込んだ俺のそばにハスキー犬が近づいて来た。俺はすかさず、ハスキー犬を抱きしめて捕まえた。心臓の激しい鼓動が伝わってきた。熱い生命力のある身体だった。ハスキー犬は再び俺に馬乗りになって顔を舐めまわしてきた。今度は顔を手で覆ったりせず、コイツを抱き締めていた。コイツの体温は心地良かった。  
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