ロープ

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 俺はどこかで間違えたのだろうか。  きっと間違えたのだろう。俺は今までの人生における選択肢を思い返した。良い事だってあったと思う。悪い事もあった。けど、きっとみんな同じようなものじゃないのか?  でも、これだけは言える。与えられた状況でベストと思える判断をした、と。自分自身が恥いるような決断はしていない、と。誰かを泣かせるような決断はしていない、と。  でも間違えたのだろう。でなければ、こんな事になっていない。きっと大事な何かを見落とし、致命的に間違えたのだ。  あの時、お袋と進路相談をしていた時、智己に道を譲る以外に道があったのかも知れない。  もし、俺が智己のお願いを突っぱねて大学に行ったらどうなっただろう。もっとマシな職場で働いていたかも知れない。でも、智己はどうなるだろう。俺と同じ様に地元の大学に行っただろうか。それとも無理にでも東京の大学に行っただろうか。多分、現実の壁の前に断念せざるを得ないだろう。  理性が残っていたのはここまでだった。とりとめのない思いと考えが俺を捉え、翻弄した。  もし、大学に行けれたら。  もし、親父が生きていたら。  もし、俺の家が金持ちだったら。  もし、俺と智己の生まれる順番が違っていたら。  ここまでは時折、夢想する事があった。今日はその先まで考えが及んだ。それ以上は考えない様にしていたのに。  もし、親父が病死じゃなかったら。  もし、智己が生まれなかったら。  もし、俺なんかが生まれて来なければ。  もし、もし、もし。  俺は何が楽しくて生きてるんだろうな。義務だろうか。それとも惰性だろうか。いつ終わるんだろう。  
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