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ぼくの目の前には、平屋建ての一軒家があった。玄関の扉に嵌めこまれたガラスにヒビが入っていたり、少し瓦が剥げていたりして、なんだか家全体が傾いているような気もしてしまう。なにより、ひとが住んでいる気配が、まったく感じられない。
この木造家屋をじっと見ているのは不気味だったので、やはり元のところへ引き返すことに決めた。しかしふと足下を見ると、一通の手紙が落ちていた。
(この家に届けられたものだろうか)
玄関の横のポストを見てみると、ぽっかりと口をあけており、風が吹くと、かすかに開いたり閉まったり、音を鳴らしていた。
(ここまで飛ばされてきたのかもしれない)
門に掲げられた表札と、宛名は一緒だった。しかし不思議なことに、差出人の名字も同じだった。離ればなれになった家族からの手紙……ということも考えられるから、このときは、とくに気に留めることもなかった。
手紙が届けられているということは、ここに人が住んでいるということだ。その事実は、ぼくを安心させたし、勇気をも抱かせた。郵便受けに手紙を戻して、その上に石を置いてあげた。
しかしまた、ぼくは不安になった。快晴だった空に、いつしか曇がかかりはじめたのだ。雨が降るのではないかという心配から、ほとんど駆けるように、元来た道を引き返していった。
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