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「ここらへんでは、いろんな噂があってね……どこまでが本当か分からないくらいに。だけど、第一発見者が言うには、お婆さんが突っ伏していた机の上には、一通の手紙が置いてあったらしい。しかも、差出人が、死んだお爺さんの名前だって言うじゃないか」  すっかり眠気は覚めてしまった。無関係だと思っていたこの事件に、ぼくが深く関与しているのではないかという疑惑が、頭をもたげてきた。あのとき拾った手紙のことが思いだされる。あの手紙は……宛名も差出人も同じ名字だった。 「なんて書いてあったの?」  声が少し震えているのが、自分でも分かった。 「さあ……そこまでは分からないな。噂ならいくらでもあるけどね。嫌いな人への悪口が書かれてあったとか、息子夫婦への恨み言が連ねてあったとかさ。だけどもしかしたら……」 「もしかしたら?」  ぼくの緊張感とはほど遠い、どこか冗談っぽい口調で、Kはこう言った。 「お爺さんから、息子夫婦のところが嫌なら、天国へ引っ越してこい……という手紙が届いたんじゃないか?」  ぼくは、すぐにはなにも言い返せず、そろそろと後ろを振り返った。  そこには、誰もいなかった。
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