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病気の療養でこのA町に滞在しているKを見舞いにきたのは、まだ、残暑が厳しい季節のことだった。
しかし、A町を訪ねるのは初めてだったから、もちろん道に迷ってしまった。スマホのマップ機能を使いこなせないほどに、方向音痴なだけに、誰か人に会ったらKの別荘の場所を尋ねようと思った。
だが、道はだんだんと狭まっていき、いつしか鬱蒼とした木陰のなかを歩くようになっていた。まだ空は晴れ渡っているはずだが、まるで日暮れのなかにいるかのような、心細い感じがした。
(引き返そう)
別荘は山裾にあるというイメージはあったが、人はいないし、このまま進んでも山中へ入っていくだけだろうし、一度、元来たところまで戻ろうと思った。
しかし目を凝らしてみると、少し先に拓けた場所が見えた。そこには、鮮やかに陽が差している。こうした、人里離れたところに居を構えているというのは、Kの性格からすれば不自然なことではない。
目の前の光景に安心したぼくは、木陰の道にできたあの日だまりの方へと、足早に歩いていった。
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