プロローグ

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プロローグ

2023年12月25日。 私達は、今日で結婚して一年目の記念日を迎える。 「今日は、仕事が早く終わるから。一緒にお祝い出来るから待っていてくれない」と今朝、家を出る前の彼に言われたのだ。 私は、張り切って準備をした。 後は、彼の大好物のシーフドドリアを温めて、ローストビーフを盛り付ければ完成。 20時までには、帰って来るって言ってたから……。 久しぶりに温かいご飯を彼に食べさせてあげられる。 ピコン……ピコン…… つけていたテレビが何かを伝える。 「もしかして、地震とか?」 テレビに注目すると、文字が流れてくる。 【19時40分頃、俳優の吉村結翔(よしむらゆいと)さんが映画の撮影中に事故に合い緊急搬送されました】 嘘……。 嘘でしょ……。 私は、クリスマスの準備をしている手を止めてスマホを取る。 手が震えてうまく通話のボタンを押せない。 机にスマホを置いて履歴から結翔のマネージャーに発信する。 『もしもし、里穂(りほ)ちゃん。今、掛けようと思ってたんだ』 「今、ニュースで見て。結翔は、大丈夫なの?」 『頭を強く打ったんだけど……。脳には、異常はなかったから大丈夫。意識は、まだ戻ってないんだ』 「今すぐ行くね」 『うん。俺は、今、撮影現場に戻ってるから……。山井総合病院だから』 「わかった。ありがとう」 『じゃあ、また後で』 電話を切った私は、火を確認してすぐに服を取りに行く。 そう。 私の夫は、人気俳優の吉村結翔だ。 私と結翔が結婚しているのを知っているのは、事務所の社長である森野さんと結翔のマネージャーであり親友の服部圭介(はっとりけいすけ)だ。 圭介と私は、小さい頃から家が近所の幼なじみ。 圭介と再会したのは、五年前だ。 再会したきっかけは、保育所から、ずっと一緒で仲の良かった浦部桃乃(うらべももの)が結婚したからだった、 桃乃は、私の親友。 結局、昨年離婚してしまったけれど……。 桃乃のお陰で圭介に再会出来て、結翔と結婚する事が出来てよかったと思ってる。 結婚したのは、桃乃には言えてないんだけどね。 玄関でコートを羽織るとすぐにブーツをはいて、家を飛び出した。 結翔と暮らすマンションは、家の鍵を閉めなくても扉が閉まれば自動で鍵が閉まるホテルのような設計になっている。 エレベーターは、各階の住人達が会わない仕様に設計されていて、エントランスでコンシェルジュが24時間3人体制で待機しているのだ。 それだけじゃない。 このマンションの全ての部屋を24時間セキュリティシステムが監視している。 だから、結翔だけじゃなく。 女優の一ノ瀬理央(いちのせりお)やアイドルのミヤビやモデルの(らん)なども住んでいる。 芸能人にとって、住みやすい仕様が施されたマンションなのだ。 ワンフロアーに2つだけしか部屋が存在しなくて……。 隣は、モデルの蘭が住んでいて、よくお忍びで俳優の優作(ゆうさく)とデートしているのを見かける。 私達が、黙認しているからだろうか? モデルの蘭と優作が付き合っているという報道は一度もされていない。 「行ってらっしゃいませ」 「行ってきます」 このコンシェルジュ達も口が堅いのだろう。 私が結翔の部屋に行くのは、監視カメラでわかっているはずなのに……。 何の報道もされないのだから……。 マンションから出ると、ドアtoドアの仕組みがとられている。 このマンションの管理しているオーナーがタクシー会社を経営している事もあり、常時3台は停まっているのだ。 「すみません。山井総合病院まで」 「わかりました」 タクシーに行き先を告げるとすぐに山井総合病院まで行ってくれた。 大都会には、いくつも大病院が存在するけれど……。 山井総合病院は、有名な医師の集まりで芸能人のほとんどが入院する時はここらしいと、付き合って暫くした頃に結翔が話してくれたのを思い出した。 「つきました」 「ありがとうございます」 急いでタクシーを降りると、夜間通用口から病院内に入る。 夜間受付で、名前を言おうと思ってふと気づく。 私は、何て言って結翔に会いに行けるの? 「よかったわ。来てくれて」 「森野社長」 「こっちよ。今ね、ちょうど里穂ちゃんに連絡しようと思ってたのよ。私もさっきついたばかりでね」 「そうだったんですね。今、受付に何て言おうかって思って落ち込みそうになってました」 「そうよね。私からのお願いで、結婚してるの黙ってもらってるんだもんね」 「いえ……」 「意識はないけど、自発呼吸は出来るからって特別個室にいるみたいなのよ」 「そうなんですね」 「私の前では、堂々としていていいのよ。里穂ちゃんは、奥さんなんだから……」 「はい……」 森野さんは、やり手女社長だ。 お父さんが立ち上げた芸能事務所MOMENTを大きくしたのも森野美鈴(もりのみすず)さんだ。 「ここね。あっ、先に入ってて」 「えっ?」 「圭介から電話がきちゃったのよ。ごめんね」 「いえ、大丈夫です」 コンコンと二回ノックしてから、病室の扉を開ける。 結翔は、意識不明なのだからノックする必要はないのに……。 扉を開けるとカーテンがひかれている。 私は、カーテンにゆっくり近づいて中を覗いて固まってしまった。
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