プロローグ

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「結翔ーー、結翔ーー。本当によかった」 「えっ……と……誰だっけ?」 何で桃乃がいるの? 「結翔、大丈夫?今、お医者さん呼ぶから」 「あの、そちらも誰?」 「えっ……」 結翔の言葉に手を握りしめている桃乃が笑うのがわかった。 「結翔……私は、あなたの妻なのよ」 「えっ?俺って、結婚してるの?」 「そうよ。あなたは、結婚してるの。この私と……」 「待って、結翔が結婚してるのは私よ。そんなデタラメな事、言わないでくれる」 「やめてくれ。さっき目覚めたばかりなのに、頭が混乱する」 結翔は、私をきつい目で睨みつけてくる。 ドラマや映画以外のお芝居で、結翔のこんな表情を初めて見た。 「ごめんね。里穂ちゃん……。どういう事?」 森野さんがやって来ると桃乃は立ち上がって病室から出て行く準備をし始める。 「結翔、目が覚めたのね?」 「あの……誰ですか?」 「誰って、何言ってるのよ。私は、事務所の社長……って、記憶喪失なの?」 森野さんが慌てているのがわかる。 私は、桃乃が気になって仕方ない。 「待って」 「何か用?」 「少し話したい」 「別にいいけど」 桃乃は、イライラしながら歩いて行く。 病室の外に出て、すぐに桃乃を問い詰める。 「今の何?どういう事?」 「里穂だって、私に隠してたよね?」 「何を……」 「吉村結翔と結婚してるって」 「そんな大きな声で言わないでよ」 「そんなにコソコソしなくちゃいけない結婚なんて可哀想ね」 「そんな事を言いにわざわざ病室まで来たの?ってか、そもそも何で結婚の事知ってるの?」 「私が何で知ってるかなんて里穂には関係ないでしょ。ってか、結翔が記憶喪失なのは、助かったわ。私が、今日からは結翔の妻よ」 「そんな事、出来るわけない」 「出来るかどうかじゃないわ。やるのよ」 桃乃は、憎悪を込めた目で私を睨み付ける。 他人に、桃乃がその目を向けている事はたまにあったけれど……。 私に向けたのは、初めてだ。 「どうしたの、桃乃……。何かおかしいよ」 「そもそも。私は、里穂が大嫌いだった。綺麗なあんたが幸せになるなんて許せない。ましてや、結翔と結婚なんて」 「何言ってるの桃乃……」 「圭介がマネージャーやってるのもさっき知ったのよ。MIXって便利よね。今のこの瞬間を誰かが呟いてくれるんだもの」 「だからって……」 「そんなに私を除け者にして楽しい?」 「そんな事、してない」 「あのね、里穂。あんたは、いつだって可哀想な存在でいてくれなきゃ困るの。それじゃあね」 桃乃な、不適な笑みを浮かべながら去って行く。 結翔が奪われるなんて、絶対にない。 だから、大丈夫。 病室に戻ると森野さんが首を傾げながらカーテンの向こうから出てきた。 「どうしました?」 「実はね。結翔が、さっきいた女の人が妻だって言い張るのよ」 「そんな……」 カーテンの向こう側に行くと結翔が頭を抱えていた。 「結翔。私を覚えてないの?今日は、私達にとって大切な記念日で」 「触るな!!」 「えっ?」 まただ。 私は、きつい目で結翔に睨み付けられる。 「ごめんなさい」 「もう来るな!お前の顔なんて、二度と見たくない」 「そんな……」 「わぁーー、わぁーー」 「ちょっと結翔。何してるのよ!里穂ちゃんナースコール押して」 「あっ、はい」 結翔は、頭を抱えて叫んでいる。 森野さんが居てくれてよかった。 一人だったら、この窓から外に出ているところだ。 「どうされました?」 「すみません。記憶がないみたいで、ちょっとした事でこんな風になるんです」 「先生……」 「ちょっとだけ鎮静かけようか?」 「はい」 「吉村さん、少し眠くなりますよ」 結翔は、やってきた医師と看護士によって眠らされてしまった。 「頭を強く打っているので、一時的に記憶が喪失しているのかも知れません。詳しくは、検査をしてみないと何とも言えませんが……」 「そうですか」 「あの、申し訳ありませんが、暫くは、吉村さんがこのような状況になる事を避けていただけますか?」 「えっ……あっ。わかりました」 「頭の傷の事もありますから……」 「わかりました」 「それでは、よろしくお願いいたします」 私と森野さんは、医師と看護士に深々を頭を下げる。 このような状況を避けるって……何? 私は、結翔に会っちゃ駄目だって事なの?
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