154人が本棚に入れています
本棚に追加
side里穂
「ごめんね。さっき、私が結翔に里穂ちゃんの写真を見せたら……」
「おかしくなったんですね」
「本当にごめんね」
「でも、どうして?」
「それが、私にもよくわからないのよ」
「私は、結翔の為になるならどんな事でもしまう」
「そうねーー。じゃあ、暫くは離れて暮らす?」
「離れてですか……」
「そんな顔しないで!結翔は、私が別でマンション借りるから。記憶が戻るなんて、すぐの事だから大丈夫」
「そうですよね……」
森野さんの言葉に大きく頷いた。
「じゃあ、帰ります」
「あっ、荷物は、結翔が退院したら引っ越し業者に取りに行かせるから必要なものだけ詰めててくれる?」
「はい」
「里穂ちゃん、大丈夫。私がついてるから……。結翔の記憶が戻ったら、ちゃんと連絡するから」
「わかりました。よろしくお願いします」
「うん。後、家賃とか大丈夫?もし、あれだったら……」
「大丈夫です。結翔から頂いてますから……」
「それならいいわ。何かあったら、いつでも連絡してね」
「はい。結翔をよろしくお願いします」
「はい」
私は、森野さんに深々と頭を下げて病室を出る。
結翔は、私を見ると睨み付けたり頭を抱える。
パニックのようなものを起こす。
その度に、医者から鎮静されていたら結翔の回復は望めない。
・
・
・
「今回の映画が披露されて、興業収入が5億突破したら……。里穂と結婚した事を世間に発表するよ」
「いいの?そんな事して大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。今回の映画は、シリーズで何作も続く事が決まってるんだ。これで、俺も俳優として安泰ってやつだよ」
「すごいね。結翔……」
「今まで、ごめんな。働き方改革してるんだけどさ……。今回の映画は、夜遅い撮影がメインだから。里穂には、寂しい思いさせちゃうけど……」
「寂しいぐらい我慢できる。だから、心配しないで」
「わかった。ありがとう」
・
・
・
結翔は、この映画にかけていた。
32歳になった結翔にやってきた、シリーズ化の話。
16歳でデビューした頃の結翔は、MINTっていうアイドルグループだった。
鳴かず飛ばずで引退を考えた18歳の頃。
有名俳優の三森信之助の息子役に抜擢される。
選ばれた理由は、結翔の目鼻立ちのくっきりとした容姿が、若かりし頃の三森信之助に似ているからだった。
それから、結翔は俳優業に重きを置いて活動をし始めた。
細々とちょい役や脇役を演じ、25歳で初の主役を勝ち取ったのだ。
それからも、主役や脇役やちょい役を演じ続けた。
だけど……。
どのドラマや映画も、ずっと続いていくようなシリーズものにはならなくて結翔はそれを悩んでいたのを話してくれた。
私達が出会ったのは、結翔が28歳で私が27歳の頃だ。
それから、付き合い出したのは1年後で……。
2年間の交際を経て、結婚した。
結翔は、今回の映画にかけてる。
記憶を失ってる間、会わないのなんてたいした事じゃない。
今までだって、付き合ってる時は半年とか会えない事あったじゃない。
だけど、あの頃と違う。
あの頃は、動画やメッセージをやり取りしてたし電話だってしてた。
今は……。
今は……。
私、待ちたいけど。
待てるかな……。
涙が頬を流れてく。
視界は、歪んで。
真っ直ぐ歩いてるか歩いてないかわからなくて……。
「里穂ちゃん……」
最初のコメントを投稿しよう!