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side 圭介
「電話鳴ってるんじゃない?」
「えっ?あっ、本当だ。ちょっと掛けてくる」
「うん」
社長からの電話だった。
掛け直すとすぐに出る。
「圭介、どうなってるの?結翔を、圭介じゃないわよね?信じていいのよね?」
社長の言葉が全く理解出来なくて、何て返せばいいかわからない。
「聞いてる?圭介」
「あの……何と言ったらいいのか。何の話ですか?」
「あっ、ごめんね。ちゃんと説明しなきゃわからないわよね」
「はい」
「実は、圭介が結翔を殺そうとしたっていう内容の文章が届いたの。それと、USBに……。ごめんなさい。ちょっと記者が来てるみたい。また、掛け直すわ。あっ、圭介。結翔を殺そうとしてないわよね?」
「確かに結翔がいなければって思った事はありました。でも、俺は絶対に結翔を殺そうとなんかしてません」
「そうよね。わかったわ、信じるわ。じゃあ、また掛けるわね」
「はい」
社長との電話が終わり、リビングに向かうと里穂が怯えながら俺を見つめてくる。
「何か見えてる?」
「圭介……嘘だよね」
「何の話?」
「圭介が結翔を殺そうとするわけないよね?」
「当たり前だろ。そんな事、するわけないだろ」
「じゃあ、これは何?」
「これって?」
「この動画の声。圭介じゃないよね?」
里穂はテーブルにスマホを置いて再生する。
【結翔がいなければ、俺が里穂と付き合えたんですよ!それなのに、いきなり現れた結翔が里穂を取ったんです。わかります?わかりますか?森野さん】
「そ、それは……」
「これは、圭介じゃないよね?信じていいんだよね?繋ぎ合わせた音声とかなんだよね」
「それは……」
「圭介」
「俺の声……だね」
里穂は泣きながら、もう一つ何かを再生する。
「じゃあ、これも……事実なんだね」
結翔を誘導する場所で、確かに俺が何かをしているようにうつっている。
その手には、何かが握られていて、キラキラと反射しているようだ。
これは、フェイク動画?
「これは、違う」
「じゃあ、さっきの音声も違うの?」
「さっきのは俺だけど。これは、違う」
「そんなのおかしいでしょ?さっきの音声は圭介で。この動画は偽物なの?そんな事、あり得ないでしょ」
「里穂、信じてくれよ!俺は、結翔に何もしてない。その音声は、最近じゃなくて昔のなんだよ」
「圭介……信じられないよ」
「里穂……待ってくれよ」
「私、やっぱり。結翔と住んでた場所に帰る」
「待って、待って。里穂」
「離して、ちょっと一人になりたい」
「それなら俺が家出るから。里穂は、ここにいて」
里穂は、納得してくれたようだった。
俺は、荷物を取って、部屋を出る。
「孤独は人を疑心暗鬼にさせていきますよ」
「誰だ」
「誰でもいいじゃないですか……」
「ちょっと待てよ」
隣の住人は、部屋を開ける。
「そ、それは……」
「彼女の誤解は解かない方がいいのかも知れませんね」
扉が閉まっていく瞬間に気づいた。俺は、彼女を知っている。
そして、この部屋には……。
ダイナマイトがある。
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