side圭介

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side圭介

「また、そうやって呼ぶんだ」 「ごめん」 「いいの、いいの。別に、怒ってないから」 「何かあったのか?」 「何もないって、じゃあ、私、急いでるから」 「待てよ!そうやって、いつも何でもない平気だって顔するのやめろよ」 「離してよ。圭介には、関係ないでしょ」 「関係あるよ!」 「何で……」 「だって、結翔を会わせたのは俺だから……」 里穂が、泣いてるのがわかる。 本当は、俺。 あの日、里穂に告白しようとしてた。 ・ ・ ・ 「圭介ーー。休みって何するの?」 「俺は、ちょっと会いたい人がいるから会いに行くんだけど。まあ、結翔も久しぶりの休みを満喫しろよ!珍しく3日間もあるんだから」 「だから、困るんだよ。普段から、仕事と家の往復だったし。休みになったら、MINTのメンバーと遊んだりしてたし……。だけど、最近じゃ。MINTメンバーも結婚したり、彼女が出来たりで。全然、遊べてないし」 「じゃあ、遊べる人探せばいいんじゃないか?」 「今から何かいないよ」 「結翔なら、大丈夫だって」 「じゃあ、圭介がどっか連れてってよ」 「えっ?」 「邪魔しないから、会いたい人に会いに行くのついて行かせてよ」 無理だって言えなかった。 だって、結翔は、いずれこの事務所の看板俳優になる存在で……。 「嫌だ」って言って、機嫌を損ねて辞めるなんて言われたら困る。 だから……。 「本当、ごめん」 「私は、いいんだけど」 「本当は、外がよかったよな。だけど、結翔がいるから。ほら、パニックなったりしたら困るから。だからって、カラオケはなしだよな」 「圭介……大丈夫?気にしないでいいよ。カラオケのご飯も悪くないから」 「ありがとう、里穂」 「ううん」 「圭介が会いたかったのって幼なじみなんだ」 「まあな。こないだ、久々に再会して。それで、ご飯行こうって言ってて……ようやく休みがとれたから」 「へぇーー、そうなんだ。里穂ちゃん、よろしくね」 「あっ、はい。よろしくお願いします」 気持ちを伝えられないもどかしさから、俺はとにかく酒を飲んだ。 「トイレ行ってくる」 「行ってらっしゃい」 トイレから戻ってドアを開けると結翔が里穂に連絡先を聞いていた。 人生で一番最悪なタイミング。 昔から、里穂が好きだった。 だけど、気持ちに蓋をして傍にいる事を選んだ。 その結果、20歳になってから疎遠になった。 ようやく再会できたのに……。 ようやく気持ちを伝えられると思ったのに……。 【まじで!結翔、邪魔だわ】 心の中の俺の悪魔が呟いてた。 許せなかった。 顔も中身も悪い奴じゃないのわかっているからよけいに……。 マネージャーである俺より、結翔の方が数百倍輝いてるし……。 人を惹き付ける魅力がある。 俺は、この瞬間敗北が見えた。 「お帰りーー。圭介、今日はオールでしょ?」 「里穂は、大丈夫?」 「うん。大丈夫だよ」 「せっかくだし、オールしようか」 「いいね、しよう、しよう」 笑顔でいなきゃ。 楽しそうにしなきゃ。 じゃなきゃ、誘った里穂に悪いと思ったんだ。 結局、俺は告白なんか出来なくて。 案の定、結翔に里穂を取られてしまったんだ。 それから、暫くたった頃だった。 「里穂とは、うまくいってる?」 「いってるよ」 「それなら、よかった」 「あのさ、圭介に前から言いたかったんだけど」 「何?」 「里穂って呼ぶのもうやめてくんない」 「えっ……。でも、急に名字とかで呼んだら向こうが気をつかったりするだろうし」 「里穂ちゃんにしたらいいじゃん」 「何で……急に?」 「結婚したいから、奥さんの事呼び捨てにする男が他にいるのは許せないし……。それに、圭介と里穂が築き上げた時間は俺は越えられないから……。だから、やめて欲しい」 「わかった」 結翔が里穂と結婚まで考えるほど、真剣なのがわかった。 それに、結翔なら安心して里穂を任せられるって思ったんだ。 この頃には、結翔への苛立ちとかも全然なくて……。 二人には幸せになって欲しいって、心の底から思ってた。 ・ ・ ・ 「里穂ちゃん……送ってくよ」 「やめて!」 「えっ?」 「圭介まで、そんな風に私を他人扱いしないでよ」 「どういう意味?」 「里穂ちゃんなんて呼んで、私との距離をとらないでよ」 「それは、今に限った事じゃないだろ?」 「今の私にはきついの。圭介にまで、他人扱いされたら生きていきたくなくなる」 「何言ってんだよ。里穂ちゃ……」 「もういい」 「待って、待って。里穂」 走り出そうとした里穂は、足を止めてくれた。 いけないのは、わかってる。 だけど、泣いてる里穂を1人には出来ないし……。 泣いてる里穂を……。 「圭介……」 「ごめん。呼び捨てとかしたら、好きが溢れそうだから」 俺は、人として一番最低な事をしてる。 里穂を引き寄せて、ギュッと抱き締めてしまった。 「どういう意味?」 「ずっと好きだった。今も好きなんだ」 弱ってる人間に愛の告白など一番やっちゃいけないやつだ。 「圭介……私は……」 「わかってる。結翔が好きなのわかってるから……だから、今だけ。少しだけ」 ずっと慰めて欲しかったのは、俺の方だったのかも知れない。 ブー、ブー 「ごめん」  「ううん」 電話がかかってきて、俺は里穂から離れた。 「もしもし」 『奪うならちゃんと最後までやらなきゃ駄目だから……』 「誰だ?」 『どうせ、あんたは中途半端な優しさで。最後の最後には、吉村結翔に彼女を渡すんだろう』 「だから、誰だって言ってるんだ」 プー プー プー 「どうしたの?」 「いや、何でもない。家まで、送るよ」 「うん」 壊れた機械みたいな声だった。 まるで、俺と里穂の事をどこかで見てるような口ぶりだった。 「あのね」 「何?」 「一緒に、ご飯食べてくれない?」 「えっ?」 「ほら、クリスマスだから……」
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