side里穂

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side里穂

取り乱した私は、圭介に抱き締められて、ホッとした。 だからかな? 一緒に、ご飯を食べないなどと誘ってしまった。 沈黙が続く車内。 どうしよう。 言わなきゃよかった。 「あ……あの」 「ちょうど、お腹減ってたからいいよ」 「えっ……いいの?」 「えっ、駄目だった?」 「いや、駄目じゃないけど。誘ったの私だし」 「だよなーー。駄目なのかと思ったわ」 いつからか、圭介は他人行儀になった。 って呼ばれた日から……。 「それで、何かあった?」 「あっ、うん」 「何があったの?」 「桃乃がいた」 「えっ?桃乃が?どうやって知ったんだろう」 「MIXで圭介が病院から出て、電話してるのが呟かれてた」 「あーー、あいつか」 「あいつ?」 「MINTの時からの結翔のファンだよ。近づいてきたりとかは、しないんだけど。写真撮ったり呟いたりするんだよ。あーー、まじか。結翔が、倒れた事に焦ってたから。あいつの存在、忘れてたわ」 圭介は、「マネージャー失格」だと言いながらおでこを叩いている。 何か、落ち着く。 さっき、拒絶されて痛んだ心が癒されてく。 「それで、桃乃が何してたの?」 「結翔の妻になった」 「えっ?」 赤信号で停まると圭介は、私を見つめる。 「妻って何だよ。そんなの無理だろ?」 「出来るんだよ」 「出来るって、どうやって」 プップーー いつの間にか、青信号に変わっていて。 後ろの車がクラクションを鳴らす。 「わかってるって」 圭介は、急いで車を発進させた。 「結翔ね。記憶喪失みたい」 「は?」 「私の事見たら、パニックになってね。叫んでおかしくなるの」 「何だよ。それ……」 「森野さんが見るからって、暫くは別々に暮らすって。記憶が戻るまでの辛抱だから。そんなのすぐだよ」 「記憶が戻るのがいつかってわかんないんだろ?」 「うん」 圭介の運転してる横顔が暗いのがわかる。 「結翔が記憶戻るまでは、俺が里穂を支えるから」 「いいよ、いいよ。私は、1人で大丈夫だから」 「嘘つくなよ。大丈夫じゃないだろ?」 幼なじみの圭介には、嘘がつけなかった。 「車、コインパーキングに停めてくるから……。先に、家に帰ってて」 「うん。ありがとう」 車は、結翔と暮らすマンションに到着した。 マンション近くにあるコインパーキングに圭介は、車を停めに行く。 「お帰りなさいませ」 「ただいま」 マンションのエントランスで、コンシェルジュに声をかけられた。 私は、そのままエレベーターに乗り込んだ。 家の階について、エレベーターを降りた時だった。 「吉村、大丈夫だった?」 「あっ、えっと」 「チクったりしないって。俺だって、蘭との事バレたら大変だからさ」 「あっ、えっと何とか大丈夫です」 「そっか、そっか。それなら、よかった。彼女としては、心配だったでしょ?」 「えっ?」 「二人見てたら、バレバレだって。別に、何のメリットもないからチクったりしないから。じゃあ」 「あっ、はい」 黙認されていたのは、私達も同じだった。 俳優の優作は、エレベーターに乗り込んで帰って行く。 「あれ?入ってなかったの?」 「あっ、うん」 元々、結翔が住んでいたマンションだから……。 圭介は、コンシェルジュと顔見知りだ。 「引っ越したくても、ここ以上にセキュリティのしっかりした所ってないんだよね」 「まあ、ここは。忙しくなった結翔の為に社長が見つけてきたからね」 「今、開けるね」 鍵を開けて、圭介を入れる。 玄関は、眠れるぐらい広い。 私は、ブーツを脱ぐ。 「何か、ずっと来てたのに……。別の家みたいだ」 「そう?」 「ああ。やっぱり、1年も一緒に暮らすと混ざり合うんだな。お互いの物が……」 「そうなのかな?」 「そうだよ。いい事だよ。お邪魔します」 「どうぞ」 圭介を家に入れたのなんて、実家ぐらいだ。 「相変わらず、里穂の好きなテイストって変わらないんだな」 「そうかな?」 「そうだよ。この何とも言えないべちゃっとした顔のブタって昔から置いてなかった?あっ、ごめん。言い方悪かったよな」 「違う……違うの。そうじゃないの」 圭介は、私の頬を流れる涙に触れる。 「里穂は、どうしたい?」 昔から、圭介が言ってくれた言葉にさらに泣いてしまう。 「言ってよ。協力するから……」 「私の夫を返してほしい」 「結翔の記憶を戻す手伝いをすればいいんだな!わかった」 「違う」 「違うって?」 「ずっと言ってなかったんだけど。さっき桃乃と話して思い出した事があるの」 「何?」 「ちょっとだけ待ってて」 圭介にリビングで待っていてもらって、自分の部屋に入る。 ずっと勘違いだと思ってた。 だけど、さっき桃乃が言った言葉で点と点が繋がったのを感じた。 小さな段ボール箱を抱えて、圭介の元に戻る。
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