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「それって、昔の物?」
「そう。ちょっと見てもらっていい?」
「うん」
桃乃や圭介と撮った写真。
その下に眠っている私の日記と携帯電話。
「うわ、懐かしい。桃乃と里穂って、時々髪型似てたよな。双子コーデだっけ?あんなのもしてたよな」
「たまにする時もあったよ。だけど、次の日に桃乃が私の鞄と同じのを持ってきたり、キーホルダーをつけてたり……よくあった」
「それって、桃乃が真似してたって事?」
「あの当時は、流行りだからかなぐらいにしか思ってなかったんだけどね」
「うわーー、懐かしいな。がらゲー。これって、スマホの先駆けみたいな感じしない?スライド式で、画面がそこそこ大きくて」
「桃乃もこれの黒を持ってた」
「お揃いにしたのか?」
「そんな記憶ない。電源つくかな?」
「やってみようか」
圭介が、電源ボタンを長押しすると電源が入ってくれた。
「ついたよ」
「ちょっと貸して」
フォルダ分けされた友人フォルダを押す。
桃乃と私と仲が良かった南沢芽衣のメールを探した。
「圭介、これ読んでみて」
「えっ。うん」
南沢芽衣が、私に誤送信してきたメールの文章を圭介に見せる。
当時は、めちゃくちゃ傷ついて誰にも言えなかったのを覚えている。
「読んでいい?」
「うん」
「じゃあ、口に出すよ」
「うん」
「えっと……。桃乃ちゃんが言ってたみたいに里穂ちゃんは男受け狙ってて頭悪いのが話したらわかった。ってか、ちょっと綺麗だからって調子乗りすぎじゃない?桃乃ちゃんが、金山を好きになったのって里穂ちゃんに嫌がらせ?里穂ちゃんって、サバサバアピールが過ぎるよね。何かあり得ないわ。しかも、私達の事、馬鹿にしてたのも聞いて。さらに、あり得ないって思ったわ。桃乃ちゃんが、里穂ちゃんに似合うのは全部私に似合うって言葉すごいかっこよかった。ってか、里穂ちゃんの好きな人の事応援しながら貶めてるの最高だわ。金山に里穂ちゃんが好きって言われて、里穂ちゃんは金山の事、財布にしか見てないって言ったのはまじで笑ったわ」
圭介は、読み終わると私の顔を見つめる。
「驚いたよね。ごめん、忘れて」
「いや、驚いたとかじゃなくて……。桃乃は、里穂が嫌いだったんだなって思っただけなんだ」
「そうだね……」
知らなかったわけじゃない。
気づかないフリをしてただけ……。
わかったのは、桃乃の結婚式の日だった。
・
・
・
桃乃のお色直しの時間に私は急いでトイレに入った。
久しぶりに圭介に会えた事が嬉しくて、お酒がよく進んだ。
カツコツ……
カッカッコツ……
誰か来たんだ。
トイレから出ようと鍵に手を伸ばした時だった。
「ねぇねぇ、見た?」
「見た見た。秋月圭介の横に星野里穂並ばせるとかやり方えぐいよね」
「確かに、確かに」
「やっぱり、桃乃って秋月の事好きだって噂本当だったんじゃない?」
「でもさ、星野さんが秋月たぶらかしてるから秋月は恋できないって噂あったじゃん」
「あった、あった。あれってさ、もしかして、桃乃が言いふらしてたとか?」
コツコツ……
「あーー、ここだった。何話してるの?」
「秋月と星野さんの事」
「あーー、やっぱり。今日の結婚式って桃乃の嫌がらせだよね」
「やっぱ、そうなんだ」
「星野さん、独り身だから。ざまあって思ったんじゃない」
「わかる、わかる。星野さんって、美人だから……。こっち見てるだけで睨んでるみたいだったし。黙ってると怒ってるみたいだったじゃん」
「そうそう」
「そのくせ、クラスの男子の半分は星野さん好きだったよね」
「そうそう」
「あれ、私も嫌いだった」
「わかる。秋月好きな子とかみんな星野さん嫌いだったよ」
話してるのは、中学の同級生達だとわかった。
圭介は、中学まで秋月だった。
両親が離婚して高校からは、服部姓になった。
だから、秋月と呼んでいる彼女達は中学まで一緒だった子だ。
だけど、桃乃が同級生を結構呼んでるから、誰が誰かまでは声だけでは把握できない。
「星野さんって友達少なかったじゃん。基本、秋月と桃乃といたし」
「だからじゃん。たいして仲良くない連中も結婚式呼んでるの」
「桃乃の嫌がらせか」
「あんたは、友達もいないでしょってね」
「ハハハ、うける。でも、この再会で秋月と星野さんが燃え上がったらどうすんの?」
「それは、それでいいんじゃない?」
「何で?」
「秋月より上のクラスのイケメンや金持ちと星野さんがくっついたら桃乃のプライドへし折られるでしょ」
「だから、IT社長と結婚かーー」
「美人なだけで愛想よくない星野さんより優位に立ちたいだけよ」
「でも、わかるわ。私も、なんか星野さんには不幸でいて欲しいもん」
「うける。でも、うちもそう思う。星野さんが幸せとかムリムリ」
「だよねーー」
「むしろ、私は秋月と一緒になった時点で殺すかも」
「うわーー、その考え、エグッ。でもわかるわ」
「わかる、わかる」
「あーー、そろそろ戻ろっか」
「うん」
足跡が遠のいていく。
やっと出れる。
なのに……。
足が動かない。
震えてる。
久しぶりに再会したのに……。
理由が、こんな事だったとか。
何とか、勇気を出してトイレから出た。
「大丈夫か?なかなか戻ってこないから心配になったんだ」
「圭介……」
「どうした?あっ、桃乃が結婚したのが嬉しいんだろ?わかるよ。俺もだから……。はい、ハンカチ」
「ありがとう」
あの時、結婚したのが嬉しかったわけじゃなかった。
何だろう。
ずっと、ずっと、ずっと引っ掛かってた。
桃乃に言わなかった恋は、いい感じになったり成就したのに……。
桃乃に話した恋は、玉砕してた。
それって、さっきの話が本当なんじゃ?
だけど……。
桃乃を信じたい。
さっきの子達より、私はもっと前から桃乃を知ってる。
「後、五分ぐらいで戻ってくるって。外の空気吸いに行く?」
「うん」
アルバローザの香水。
圭介の匂いだ。
・
・
・
「アルバローザの香水……」
「あっ、中学の頃からこれしかつけてなくて」
「ううん。爽やかでいい匂いだなーーって。癒されるなーーって」
「あはは。これは、里穂が言ったから」
「えっ?」
「何だっけ、昔、里穂が好きだったアイドルの男の子」
「えっと、プリンスの美里君」
「そうそう。その子がつけてるアルバローザのmelodyって香水がめちゃくちゃいい匂いだったって。あの香水つけてる人がいたら好きになっちゃうかもって」
「そんな事、言ったけ?」
「言ったよ。だから、俺。ずっーーとアルバローザのmelodyつけてんだから。だけど、里穂は俺の事一回も好きにならなかったよな」
「好きだったよ」
「えっ?」
「好きだったよ。高1の頃。だけど、圭介。三富さんと付き合ったって言ったから言わなかったの」
「嘘だよ。確かに、三富とは半年ぐらい付き合ってたけど。里穂が俺を好きだったのは嘘だね」
「嘘じゃないよ。嘘じゃないから桃乃の結婚式で圭介に会った時に安心したんだ。圭介の匂いだーーって。だから……」
「だから、何?」
「あっ、ご飯作るね」
「あっ、あーー」
アルバローザの匂いを嗅いでると、圭介を好きだった自分を思い出す。
結翔に突き放されたからって、圭介にすがるなんて間違ってる。
そんな事、許されない。
「なあ、里穂」
「何?」
「手伝ってやるよ」
「えっ?」
「結翔を取り返すの」
「取り返すって、まだ誰の所にも行ってないから」
「桃乃は、昔から人のものが好きだって中学の同級生から聞いた事あったんだよ。信じたくなかったんだけど。さっき、里穂に見せられたメール読んだら本当だったんだって納得した。まあ、桃乃が里穂を嫌いだったのは気づけなかったんだけど」
「私以外の誰かにもやってたって事?」
「そう。あの結婚相手も略奪婚だったらしいから」
「それじゃあ、結翔は?」
「奪われる」
「そんな……そんな事、出来るわけ……」
「同級生が言うには、桃乃は欲しいものを手に入れる為なら手段を選ばないって言ってた。だから、桃乃になら出来るのかもな」
「私が自分より不幸でいて欲しいから、そこまでやる?」
「それは、わからないけど。とりあえず、前の旦那さんに会いに行ってみるよ。里穂は、里穂の出来る事をやればいいから」
圭介のこういう優しい所に引かれたんだ。
いつだって、圭介は人の事を1番に考える人。
私は、結翔の為に作った料理をダイニングテーブルに運ぶ。
これから先、どんな日々が待ち受けているかわからない。
だけど、必ず、結翔を返してもらうから……。
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