原作声のアンドロイド

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イライは会社が保有している工房付きの社宅で一人暮らししており、普段は滅多に人を招き入れない。 「……また勝手に上がり込みやがって」 だがポストが空になっていることと部屋の照明が点いているのを鑑みるに、お呼びでない客人がいることは確かだった。 「いいかストーリー、俺の工房に入るまで絶対に、なにがあっても音出すな、分かったか」 うんうんとストーリーは無駄に大きな仕草で首を縦に振る。この挙動の大きさもどうにかしたいが、あまり声を出すと今度は隣人に茶化されかねないため諦めることにする。 オートロックを指紋で解除し、ゆっくりと扉を開く。突き当たりにあるリビングのドアのくもりガラスに人影があるため、頼むから出てこないでくれよ、と願いながらイライはトイレの隣のドアを開けた、が。 「おかえりー! いやー勝手に入ってごめんねー。私あんたに確認したいことが……って、なにそのぶりぶりしたアンドロイド、買ったの? キモぉー」 最悪、という言葉が脳内に溢れかえる。イライはすぐにストーリーから手を離し、扉の中へと押し込んだ。 「依頼主のアンドロイドに決まってんだろ。俺にこんな趣味があってたまるか」 「うそうそ、お母さんの冗談。それでさ、私あんたに来週の話したか聞きたかったのよ。ほら雨宮さんの娘さんの話」 「聞いた聞いた、予定空けとけってやつだろ。分かったから帰れよ、これ急ぎの仕事なんだよ」 「えーお母さんせっかく来たのにぃー。にしてもさっきのアンドロイドやばくない? 持ち主ぜったいキモい人でしょ、友達とかいない感じの。ほんと引くわー」 「……工房にはぜってぇ入んなよ。仕事の邪魔したら業務妨害で裁判起こしてやるからな」 「わかりましたー。ああもう、息子が冷たくてお母さん寂しぃー」 母親の文句を余所に、イライはさっさと扉の中に入ってガチャリと鍵を閉めた。 ドゴッ。 鍵の閉まる音と同時に鈍い音が鳴る。ストーリーの目には、扉に頭突きをかましたイライの姿があった。 「20年……一緒にコイツを作り上げた家族がいるってさ」 ドゴッドゴッ、とイライが連続して額を叩き付ける。ストーリーが恐る恐るその肩を叩くと、イライはずるっと肉が擦れる音を鳴らしてから「忘れろ」と呟いた。 「絶対に学習すんなよ、お前は健気でいろ。な?」 と通りすがりにストーリーの頭を撫でてから、イライは地下へと通じる螺旋階段を降り始めた。立ち止まっていたストーリーもその後を追う。
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