原作声のアンドロイド

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「……できた」 カップ麺やペットボトルのゴミが散らばる仄暗い部屋で、パソコンの光に照らされていた男は顎の肉を揺らして叫んだ。 「できたぞ!! オイお前ら起きろ!! 俺たちの大望……オリジナルアンドロイドの完成だ!!」 そう呼びかけると、モニターに表示されていたウィンドウ内で男がソファから転がり落ち、別のウィンドウでは「嘘だったら今からお前に爆音をお届けしてやる」と巨大なスピーカーを構えた男がどっかりとあぐらをかいた。 「うわすげぇ隈」 『お前には負けるわ』 『……パンダ……?』 「お前それ俺の体型で言ってんだろ! いや今はそれ置いといて、ともかくこれを見ろ!」 男は椅子のキャスターをゴロゴロと言わせて移動し、隠れていたソレをパソコンのカメラへ晒した。 黒髪黒目に白い肌、手足は細く、アーモンド型の目が可愛らしい人型アンドロイド。今から50年ほど昔の美人な女性の諸特徴を模しているのだが、その完成度は本物の人間と見紛うほどだった。 画面越しにすすり泣く声が聞こえる。 『プログラミングに製図にモデリング、ロボット工学から電気電子工学まで0から勉強して早20年……この日が来るのをどれだけ待ち望んだか』 『おれもうしんでもいい』 苦節20年。軽い気持ちで始めたアンドロイド製作がまさか20年もかかるなんて誰が予想したか。既製品買っときゃ良かったと後悔した日々に懐かしさすら覚える。 「じゃあ起動するぞ、俺たちの汗と涙の20年の結晶、夢のアンドロイド『ストーリー』を……!」 男はそう言い、アンドロイドの額に挟まっていた絶縁シートを引き抜いた。パチン、とバッテリーが接続された音が部屋に響く。 「こォンにちッは! ワタしハかッ、しょーヨォAndroid、Storyデスゥゥッ!! あナたのなまエはッ!? なンデすか!!」 「「は?」」 声質、音程、そしてイントネーションが狂いに狂いまくった音声に一同が唖然とする。そして画面越しに互いを見つめ合い、3秒後に大口論が巻き起こった。 『おいおかしいだろ! 俺は女神みたいな儚げ微笑を称える幸薄系美少女っぽい声質に設定したはずだぞ! なんだこのイカれたニワトリみたいな声は!!』 『はぁ? そんな声にするなんて話聞いてないよ! 僕はてっきり素朴な中に親しみと愛らしさを詰め込んだアイドル! あざとさを体現したステージの花! 実質オレの嫁! 的なアンドロイドにするもんだと思ってイントネーションに気合いぶち込んだんだぞオラァ!』 「は? いや俺低音女子にしか興味ないって話したろ。重低音スピーカーだって俺持ちで取り付けたんだぞ」 『お前だ!! お前が1番の異分子だ!!』 『なんでここで方向性の違いが出るかなぁ』 ニコニコと笑顔を称える美少女アンドロイドの前で、3人の男が項垂れる。歌唱用アンドロイドなのに声が変というハプニングは徹夜3日目の彼らには堪えるショックだった。 『どうするよ……今いないあの2人が聞いたらきっと泡吹いて倒れるぞ』 『倒れるだけならいいよ拳銃片手に国際線ですっ飛んで来られるよりマシだよ』 「全身くまなく溶接したせいで中のメモリにアクセスできねぇし、下手に開けてCPUが破損なんてしたら……次はなにを質に入れたらいいんだ!! 家か、親か!?」 『働け』 『お前が死地に行け』 心無い言葉がぐさぐさと刺さる。助けを求めようと後ろにいる美少女アンドロイドに抱きつこうとするも、奇声じみた音声が耳に痛くて近寄れない。 「クソ、こうなったらアイツに頼るしか、いや、でも俺のプライドが……くっ」 『頼みの綱があるのか』 『メシア!!』 「いや綱じゃねぇよもはや縄、毛羽立った縄!! 一応俺の歳の離れた弟で、アンドロイド専門の調声師なんだけど……関わったら俺が死ぬ」 『お前弟いたのかよ』 『調声師って、楽器で言う調律師みたいなやつだよね? なんでもっと早く言わなかったの?』 「いやだって、アイツ痩せてて足が早くて友達多くてしかも働いてるんだぜ!? 俺が惨めになって死んじゃってもいいのか!?」 『おうさっさと死んでこい戦犯』 『直すまで帰ってくんな戦犯』 ブツン、とテレビ通話が切られる。 アンドロイドのアーモンド型の瞳には、男が奇声をあげながら丸い拳を床に叩きつける姿が映っていた。
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