黒い宝石と月の姫

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「デーヴィド……」 心配そうな表情で言われてしまい、僕がデーヴィドの名前を呟くと、ニッコリと微笑んで 「きっと、父様も母様も同じ考えだと思うんだ。亜蘭のその純粋で優しい性格は、俺達……いや、国民の救いだ。だから、つい過保護にし過ぎてしまうんだろうな……」 くしゃくしゃと頭を撫でられ、僕はずっと『僕が頼りなくて』みんなが子供扱いしているのだとばかり思っていた。 だけどそうじゃなかったのだと、改めて知る事が出来た事に感謝した。 「デーヴィド……、教えてくれてありがとう」 心からお礼を言うと、デーヴィドはおもむろに立ち上がって僕を抱き締めた。 「亜蘭! お前、本当に可愛いなぁ~」 頬擦りされて、僕の中のデーヴィドのイメージが崩壊されて行く。 「デーヴィド?」 「いや、マジで天使。本音を言えば、亜蘭を嫁に出したくない! いや、行くな! 此処に一生いて欲しい」 ブラコン丸出しの姿に戸惑っていると、デーヴィドが「ハッ」と息を飲み 「やってしまった……」 と頭を抱えた。 「え? どういうこと?」 驚く僕に、真っ赤な顔をしたデーヴィドが 「実は、幼い頃に亜蘭を過保護にし過ぎて父様に怒られたんだ。亜蘭が独り立ち出来なくなるから、あまり構うなと……。それで、必死に立派な兄を演じて来たが……。無理! 亜蘭、可愛すぎる!」 そう言って、まだ頬擦りしてる。 「アイシャに怒られるよ……」 ポツリと呟くと 「大丈夫だ。亜蘭さえ黙ってくれていれば、バレない」 ガシッと肩を捕まれ言われてしまう。 「え~、なんか浮気相手みたいで嫌だ」 口を尖らせて呟いた僕に、デーヴィドは呆れた顔をして 「はぁ? 何を勘違いしている? アイシャがヤキモチ妬くのは、亜蘭に……じゃなくて、俺にだ!」 と、何故かドヤ顔で言い切った。 「…………え?」 「俺とアイシャは、亜蘭の愛らしさを愛でる会の仲間だ!」 何故かまだドヤ顔のデーヴィド。 「……………………はい?」 戸惑う僕に 「俺とアイシャは、確かに魂の番だ! しかし、だ。それ以上に亜蘭の可愛らしさを共に愛で、共有し、語らう! まさにこれこそ、真のパートナーと言えるとは思わないか?」 やたらキラキラした目で言われ、僕はドン引きした。 「久しぶりに二人きりで会話出来た上に、アレクサス王子の話を聞いている亜蘭の可愛らしさに何度、何度、頬擦りをしたくなった事か……。堪えるのに必死だったが、我慢しきれなかった」 額に手を当て、天を仰ぎ見るデーヴィド。 もしかして、今までずっと深刻な顔していたのって……僕に頬擦りしたいのを堪えていたからって事? 衝撃の事実に驚愕だった。 (あれ? デーヴィドってヤバい系?) 呆れて見ていると 「あ! でも、父様と母様には内緒だぞ。特に母様は、兄弟で誤ちを犯すなよ! って大変なんだ」 肩を竦め『やれやれ』と言っているデーヴィド。 その言葉を聞いて『兄弟で誤ちを犯す』って、まさか……母様が心配しているのは、父様と母様が毎晩している「あ~ん♡」的な? 全身鳥肌が立ち、思わず後退る。 「どうした? 亜蘭」 超ドン引きして、腰が引けてジリジリと後退る僕に疑問の視線を向けるデーヴィド。 そんな僕の反応に、自分の発言に気付いたらしく 「あはははは、ごめんごめん。驚かせたよね。大丈夫だよ。俺がそういう対象で見るのは、アイシャだけだから。亜蘭は天使枠だから、父様や母様が心配するような事は起こらないから」 サラリと二人が何処まで進んでいるのかまでもを匂わされ、複雑な気持ちになりながら椅子に座り直した。
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