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「それで?」
話が横道にそれたので、続きが聞きたくて促すと
「あ、すまない。話が逸れてしまったね。それで、だ。何故、アレクサス王子が『アレク』と呼ばれるのを嫌がったのか?が気になって、そちらも調べた所、アレクサス王子を『アレク』と呼んでいたのは、アレクサス王子の母君、シーラ様だけだった事が分かったんだ」
そう言われて、僕はアレクサス王子があんなに怒った理由が分かった。
母親との思い出が詰まった名前を、初対面の……しかもどんな奴なのかも分からない隣国の人間に呼ばれたら不快になるのは当然だ。
そんな事を考えていると
「自国の人間にも呼ばせない名前を、わざわざこちら側に伝えて来るのはおかしいと思わないか?」
そう言われて、デーヴィドが最初に言っていた『アレクサス王子を失脚させようとしている』と呟いた意味が分かった。
「……でも、僕とアレクサス王子の縁談が破談になったとして、それはそれなんじゃないの?失脚とまでは……」
「甘いよ、亜蘭。アレクサス王子を失脚させたい人間にとって、これ程のチャンスは無い。友好関係を築く為に行ったのに、成果を出せずに戻るなんて……。しかも破談という事は、交渉決裂だ。まぁ、今のアレクサス王子の立場からしたら、王位継承権の剥奪は免れないだろうね」
デーヴィドの言葉に、僕は息を呑んだ。
例え継承権が最下位であろうと、あるのと無いのとでは大きく違う。
「それから……黒い宝石というアレクサス王子の異名だけど、これも僕らが受けた報告とは全く違ったよ。彼を称えて呼んでいるのではなく、『卑しい血が混じった混ざりもの』又は『悪魔の化身』って意味だったらしい」
「そんな……」
アレクサス王子の境遇に、胸が痛む。
「まぁ、異名の方はまだ誰も口にしていないから、幸いだったよね。」
椅子に座ったまま、楽しそうに庭でエリザと談笑しているアレクサス王子に視線を移した。
アレクサス王子の所作や立ち居振る舞い、そして僕を抱き留めた腕や体躯の鍛え方からして、とても努力して来たのだと思う。
それなのに、母親似の異国の血を引いたエキゾチックな容姿なだけで……そこまで虐げられるなんて……。
しかも、その原因が王族の身勝手な行動によるものだなんて信じられなかった。
僕達は父様や母様から
「王族たるもの、常に民の幸せを願い、その為なら命を懸けて国を守らなければならない。そして、行動は民の見本であれ」
と言われ続けて来た。
だから、そんな身勝手な王族が居るなんて信じ難い事だった。
でも……過去にこの国も一度だけ、謀反を起こされてたくさんの血が流れた。
父様自身、性奴隷にまで落とされたと聞いた。
母様がこの話を聞くと悲しむから……と、父様は母様が居ない時に僕達にその話をしてくれた。
好きでも無い相手に神力を封印され、国民を人質に犯され続けたらしい。
今でも時々、その時の事を夢に見るんだそうだ。
そんな時、母様が父様を抱き締めて救ってくれるのだと話していた。
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