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母様が勇者と呼ばれる訳
「はぁ? デーヴィトに王位を譲る?」
それは王宮に戻る前日の事だった。
平穏な日々が戻り、僕達はイチャイチャ……ゴホン。
幸せな毎日を過ごしていて、すっかり忘れていた。
デーヴィトだけが、父様の言葉に重く責任を感じていたらしい。(ごめんよ、デーヴィト)
エリザは夜以外、すっかり母様の傍を離れなくなってしまい、今も母様の隣で抱き着いている。
「しっかりしていると思っていたけど、エリザだってまだ子供だったよな」
心做しか嬉しそうに呟く母様に頭を撫でられて、エリザは嬉しそうに微笑んだ。
ずっと王家の淑女として育ったせいか、エリザは感情をあまり外には出さない。
でも、今回の一件がエリザの心に深い傷を負わせてしまったらしく、毎晩、母様が寝かし付けないとエリザが泣き出すようになってしまったのだ。
母様はそれが分かっているから、毎晩、エリザが眠りにつくまで添い寝をしているのだ。
父様とはその後に一緒に居るみたいだけど……、あの事件は父様にもかなり堪えたみたいで、今や母様の両脇は父様とエリザがガッチリ固めている。
さすがの母様も『うっとおしい!』とは言わず、二人の気持ちを大切にしているみたいだった。
母様の左側に父様(もちろん、腰は抱いている)、右側にエリザ(言わずもがな、母様に抱き着いている)
なんとも言えない光景に呆れていた所、デーヴィトが思い詰めた顔で現れて母様に相談した事により思い出した。
そして、冒頭の叫びに至ったワケ。
母様が、父様の顔を見て
「どういう経緯か、説明してもらおうか?」
そう言って睨み付けると、父様はアタフタしながら
「だって……多朗が……」
そう呟いて俯いた。
「俺が……何だよ」
「多朗が、ずっと二人だけで過ごしたいって言うから……」
「はぁ? 俺が? いつ?」
「記憶が無い時」
「……………………」
父様の最後の言葉に、母様は絶句している。
「記憶の無い時の自分を殴りたい……」
顔を両手で覆い、顔を真っ赤にして呟いた。
「母様、仕方ありませんわ! あの時の母様にとって、父様は呪いを解いた王子様だったんだもの!」
エリザのフォローの一言が、益々母様を落ち込ませているようだ。
母様はとうとう、首まで真っ赤にして俯いてしまった。
「母様、気にしないで下さい。僕達、気にしていませんから!」
「そうですわ! 今は普通の母様ですもの!」
僕とエリザのフォローに手で制止すると
「もう……良い。どうであれ……デーヴィト、負担を掛けたな」
母様の言葉に、デーヴィトは涙を堪えるように俯いた。
母様は両脇の二人に離れるように目で合図をすると、そっとデーヴィトを抱き締めた。
「父親になったとはいえ、まだ二十歳前だもんな……。それなのに、ここまで良く頑張ったな」
母様の言葉に、デーヴィトが身体を震わせている。
「不安でした……母様」
ギュッと母様を抱き締め漏らしたデーヴィトの本音に、僕も思わず涙が込み上げて来た。
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