母様が勇者と呼ばれる訳

2/15
前へ
/128ページ
次へ
「それで……、王位継承の話だけど……」 母様が父様に視線を向けると、父様が唇を尖らせて拗ねている。 (父様……空気読んで!!) と叫ぶ僕の心の声は虚しく 「僕だって、ずっと王様頑張ってますけど」 デーヴィトを優しく抱き締める母様に、父様が呟いた。 「シルヴァ……」 父様の言葉に、そっとデーヴィトから離れて父様に近付く母様を、父様が腰ごと抱き寄せた。 「新婚時代だって、甘い時間は無いに等しかったし、もっと多朗とイチャイチャしたい!」 目の前の、おっさんの姿をして駄々をこねる大きな子供に思わず呆れていると、母様はおもむろに父様のこめかみに拳骨をグリグリと両手でやり始めた。 「痛い痛い! 多朗、痛い!」 「はぁ? お前が即位したのは25歳だったよな? もっとイチャイチャだ? 俺をやり殺す気か!」 怒り出した母様の腰を、父様がギュッと抱き締めて 「大丈夫! 僕達の行為は神事だから」 なんて訴えている。 「……でもまぁ、デーヴィト」 腰に縋り付く父様をぶら下げ、母様がゆっくりとデーヴィトの顔を見ると 「悪いが、王様継承してくれないか」 そう言い切ったのだ。 僕とデーヴィトが驚いて母様の顔を見ると 「……とはいえ、表向きだ」 と続けた。 「俺は記憶喪失のまま、シルヴァは俺の記憶を取り戻す為に旅に出たって事にして欲しいんだ」 母様の言葉の真意が分からず首を傾げると 「俺とシルヴァが居ないとなれば、セイブリア帝国は油断するだろう。そこを、アレンと亜蘭で叩き潰す」 そう言ってニヤリと笑った。 「それなら、母様達は?」 僕がそう聞くと 「セイブリア帝国で謎の旅人2名が各地で暴れても、誰も何も言えないと思うんだよね」 茶目っ気たっぷりの笑顔で母様が答えた。 そしてそっとエリザを抱き締めると 「エリザ。又、少しの間離れてしまうけど、必ず元気で戻って来るから」 と呟いた。 「母様……」 きっと、一緒に行きたいと言いたいのだろう。 綺麗なサファイアの瞳に涙を浮かべ、エリザが母様に抱き着いた。 「ごめんな、エリザ。寂しい思いばかりさせて……」 母様の言葉に、エリザは瞳に浮かぶ涙を拭い 「大丈夫ですわ。私、ヴィー兄様の赤ちゃんと、母様達の帰りを待っていますわ」 そう言って、必死に笑顔を浮かべている。 母様が目に涙を浮かべてエリザを強く抱き締め 「今晩は、ずっとエリザと一緒に居るからな」 と叫ぶと 「えっ!」 父様が不満そうに呟いた。 僕とデーヴィト、エリザは父様を睨み 「父様はこの後、母様を独占するんだから我慢しなよ!」 三人で示し合わせたように叫んでしまった。 これには、さすがに僕達は顔を見合せて爆笑してしまう。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

312人が本棚に入れています
本棚に追加