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母様はもう一度、エリザをギュッと抱き締めた後、ゆっくりとデーヴィトに近付き
「デーヴィト。又、少しの間、苦労を掛ける」
そう言って頭を下げると、デーヴィトを強くを抱き締めた。
「だけど忘れるな。お前に何かあったら、俺達はすぐに戻る。デーヴィト、お前も可愛い俺の息子だ。第一王子という事で、あまり甘えさせてあげられなくてごめんな。だけどな、父様がお前に国を預けて大丈夫だと思う位には、お前は立派な王太子だ」
そう呟いた。
デーヴィトは母様の言葉に瞳を潤ませ
「母様……その言葉だけで、充分です」
と呟き母様を抱き締め返した。
そしてゆっくり離れると
「デーヴィト、エリザとこの国の民を頼む」
強い瞳でデーヴィトを見つめて言うと、デーヴィトも力強く頷いた。
そんなデーヴィトをもう一度強く抱き締めると、母様はゆっくりと僕の方に近付いて
「亜蘭、お前の事はもう……心配していない。アレンが居れば、大丈夫だろう?」
そう言って僕の頭を撫でると
「アレン、亜蘭を頼む」
母様はアレンを真っ直ぐに見つめて言うと、優しく微笑んだ。
「多朗様……」
アレンがポツリと呟くと
「アレン、違うだろう? 母様だ! ほら、言ってみろ」
アレンの胸に拳を軽く当てて、ニッと笑って見せた。
アレンは戸惑った顔をして僕の方を見たが、僕も笑顔を返して頷くと、諦めたように一度俯くと
「母……様……」
小さな声で呟いた。
すると母様は満面の笑みを浮かべて僕とアレンを一緒に抱き締めると
「アレン、お前も俺達の息子だ。遠慮なんかせず、俺やシルヴァを頼って欲しい」
そう呟いた後、ゆっくり身体を離してから
「これから多朗様って呼んだら、返事しないからな!」
と言って、アレンの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。
アレンが恥ずかしそうな、それでも嬉しそうな顔をしているのを隣で見ていて悔しいけど、母様には『敵わない』と思ってしまう。
僕達の国の理性と呼ばれ、国母様と崇められる母様。
僕もいつか、母様のようになれるのだろうか?と母様の顔を眺めていた。
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