312人が本棚に入れています
本棚に追加
「さて……、そろそろ本題に戻るかのう」
ババ様の言葉に、僕はハッと我に返った。
父様の浮気騒動で、すっかり本題を忘れていたよ。
「ルシアは玄武様の一部と話したかと思うが、元々私達、魔力を扱える一族は、玄武の神に護られて大きな国を持っていたのじゃ」
ババ様は遠い瞳をすると
「森と湖に囲まれ、美しい国じゃった……」
そう呟き
「しかしな、今、セイブリア帝国を治めている『デイビス』と姓を名乗る一族が現れてから、おかしくなった。奴等の一族は、ルーファス一族とローレンツェ一族の3つに分かれていてな。ローレンツェ一族は、私ら魔力を持つ人間を攫っては、奴隷として他国に売り飛ばしていたのじゃ」
ババ様の言葉に、僕は手を挙げて
「あの……魔力を持っているなら、何の力も持っていない奴等に対抗出来たのでは無いのですか?」
と質問すると
「奴等は……闇魔法を使っておった」
そう呟いた。
「闇魔法?」
「そうじゃ……。人を呪い、憎しみから生まれた魔法じゃ。闇魔法がどのように生まれ、どうして奴等が扱えるのかは不明じゃがな」
悲しそうに呟くと、ババ様は
「私らが扱う魔力は、それぞれ聖獣様から頂く力じゃ。唯一、勇者様が持っている治癒能力は、この世に勇者様だけが持ち得る『神力』じゃ。亜蘭様やデーヴィト様、エリザ様も、勇者様の血を引き継いでおるからな。光魔法と言って治癒に長けた魔法の力を持っておりますのじゃ」
と続けた。
「僕達に……光魔法が?」
驚く僕達に、ババ様は小さく笑うと
「亜蘭様は容姿が勇者様に似ているので、みんなが亜蘭様だけ扱えると思っておりますが……。エリザ様もデーヴィト様も使えますじゃ」
そう言うと、デーヴィトが自分の手のひらを見つめた。
「デーヴィト様は、容姿こそシルヴァ様に良く似ていらっしゃいますが、性格は多朗様に良く似て心根がとても優しい。シルヴァ王はデーヴィト様の優しさが、王として生きるには辛いものになるのでは……と危惧しておりました。だから、厳しく帝王学を叩き込まれたのです」
ババ様の言葉に、デーヴィトが父様の顔を見た。
僕は次男だし、王位継承権はデーヴィトが死ぬまで僕には回らない。
だから、かなり甘やかされて育ったのは知っていた。
僕と同じように明るく表情豊かだったデーヴィトが、いつしかあまり笑わなくなったのも、感情を人前で出さなくなったのも、次期王になる者が持つ素質なんだと思っていた。
「ずっと……父様も母様も亜蘭が大事で、俺の事はどうでも良いと思っていた事もあったけど……。そうじゃないのは、分かっていたよ。俺を叱る父様は、いつも父様の方が辛そうな顔をしていましたからね。だからその分、亜蘭を可愛がって来たのですが……」
デーヴィトはそう呟くと
「亜蘭はずっと、俺が護るつもりだったんだけどな。この戦いが終わったら、お前は隣国に嫁ぐ事になるなんてな……」
と呟いて溜め息を吐いた。
デーヴィトの言葉で、この戦が終わったら僕はアレンと共にこの国を去らなくてはならない事を思い出して寂しくなった。
最初のコメントを投稿しよう!