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母様激怒
翌日から、僕は前にも増してアレクサス王子に話し掛けるようにした。
なるべく友好関係になるようにと、僕なりに努力をしてみたんだ。
でも、アレクサス王子の態度は頑なだった。
作り笑顔は浮かべるものの、会話が続かないような返事しか返って来ない。
それでも、お互いを分かり合えればいつか誤解は解けると……そう信じていたんだ。
この日も、僕は朝食を取った後、アレクサス王子を散歩に誘ってみた。
断られるかと思ったけど、珍しく誘いに乗ってくれたのが嬉しかった。
庭園にある薔薇園に誘い、そこまでの道のりにある花々をアレクサス王子に説明して歩いた。
薔薇園は常に真っ赤な薔薇が咲いていて、奥の小さなガラス張りのテラスがある小屋が可愛らしい作りになっている。
夜は閉鎖されて入れないが、昼間は小屋の前のガーデンでお茶が出来る。
この場所は、王族以外は立ち入り禁止の場所だ。
でも、月明かりの中で過ごしたら、とてもロマンチックな場所なんだろうなぁ~といつも思っていた。
薔薇のアーケードを抜けると、ガラス張りのテラスがある小屋があり、小屋の前には月明かりが映るであろう小さな噴水があるのだ。
今は太陽の光を浴びで、噴水からキラキラと光る水が流れている。
小さなガーデンに真っ白なテーブルと椅子が置かれており、既にお茶の用意がされていた。
「アレクサス王子、一緒にお茶を飲みませんか?」
椅子を勧めて、僕とアレクサス王子はテーブルに着いた。
「こちらに来てから、もうすぐ1ヶ月ですね。慣れましたか?」
笑顔で話し掛けても、アレクサス王子は無表情のままお茶を口にした。
「あの……初日のご無礼のお詫びをしたくて……」
そう切り出すと、お茶を飲むアレクサス王子の手元がピクリと反応した。
「知らなかったとはいえ、本当にごめんなさい」
頭を下げた僕に、アレクサス王子からの返答は無い。
恐る恐る視線を上げると、アレクサス王子は僕を冷めた瞳で見下ろしている。
その瞳は、一瞬で僕の心を凍り付かせた。
「この国は、同性で結婚出来るそうですね」
突然話を振られ、一瞬、意味が分からず思考が停止した。
「しかも、国王の妻も同性だなんて……」
それは、蔑むような意味合いを含んでいるのが僕にも分かった。
「君たち王子は、国王が側后に産ませた子供なんでしょう?」
そう言われて、アレクサス王子が何を言いたいのか分からなくて戸惑ってしまう。
「いや、僕達は母様から産まれた……」
「嘘をつくな! 男がどうやって子を孕む?」
冷たい、冷めた瞳が僕を見下ろす。
「嘘じゃ……無いです。母様は、龍神に守護されています。だから、父様との間に子供を身篭れたのだと聞きました」
僕は震える手をテーブルの下に隠し、必死に言葉を紡ぐ。
「龍神だって? この国に来て1ヶ月、全く見ていないが? そもそも、君たちは皇后から本当に生まれたのか?」
その言葉に、僕が反射的にアレクサス王子を睨み
「エリザがお腹に居るのを見ています!母様が苦しそうにしながら、エリザを出産する為の部屋に入るまで一緒に居ました!僕のことは、最初に無礼を働いたので、悪く思われても仕方ありません。でも、母様を悪く言わないで下さい!」
そう反論すると、アレクサス王子は愕然とした顔をして飲んでいた紅茶のカップをソーサーに置いた。
そして口元に手を当てると
「私に……そのような事をしろと?」
と呟いたのだ。
(……………………ん?)
僕は目を点にして、アレクサス王子の顔を見た。
ショックを受けた顔をするアレクサス王子に
「え?…………何の話です?」
思わず間抜けな声で聞くと
「私は、貴方の愛妾として差し出されたのですよね?」
という、あまりにもショッキングな言葉を言われて再び固まった。
意味を理解するまでに、僕は数秒動けなくなった。
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