離れたくない

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離れたくない

 その日、緊急会議が行われ、アレクサス王子は1週間後に国に帰される事となった。 母様の激昂振りに、逆に父様は冷静だった。 しかし、アレクサス王子の行いは瞬く間に広まり、今、アレクサス王子は客室に監禁されている。 何度も謁見を申し出たが、母様とデーヴィドが許してくれない。 僕は頭に来て、今、自室にこもってボイコット中だ。 大体、僕の話を聞いてくれても良いと思うんだよ!なのに、二人して 「亜蘭は人が良すぎるからダメだ」 だって! あまりにも一方的過ぎるよ! 部屋にこもって3日目。 控え目にドアがノックされ 「兄様? エリザです」 ドアの向こう側からエリザの声が聞こえる。 でも、今はエリザとも話をしたくない。 黙っていると 「アレクサス王子から、お手紙を預かりました」 そう言われて、ベッドから飛び降りた。 ドアを開けると、心配そうな顔をしたエリザの後ろに母様とデーヴィドの顔が見えた。 僕は2人を睨み付け、エリザから手紙を受け取って早々にドアを閉めた。 手紙は王室の物で、多分、お願いして用意してもらったのだろう。 『亜蘭様』と書かれた文字は、美しい文字だった。 封筒から手紙を出すと、内容は誤解による僕への数々の非礼と、最後に僕の手を払い発言してしまった言葉への謝罪だった。 とても真摯に書かれていて、僕は涙が止まらなかった。 こんな形で別れるなんて、絶対に嫌だと思った。 「会いたい……」 ポツリと漏れた言葉。 やっと、やっとスタート地点に立てたのに……。 手紙を握り締めて泣いていると 『やれやれ……。ねぇ、そろそろ僕を頼っても良いんじゃない?』 何処からとも無く声がした。 キョロキョロと辺りを見回すと 『此処だよ、此処!』 と言う声と共に、僕の首に掛けられたペンダントの指輪から金色の竜が現れた。 僕が驚いて腰を抜かすと 『嫌だなぁ~、本当に忘れちゃったんだね』 悲しそうな顔をした竜が呟いた。 実は僕、幼い頃の記憶を無くしている。 幼い頃、能力の暴発により命を落としかけたんだとか。 それで、父様と母様が僕の能力を抑える為に、記憶を消したんだと聞いた。 「きみが……僕の守護竜のマテオ?」 金色の竜に声を掛けると、竜は嬉しそうにクルクルと回り出して 『そうだよ! 亜蘭、僕はきみの味方だ』 そう言って笑った。 「きみの力って……」 『僕は龍神だよ。きみの願いは、何でも叶えて上げられるよ』 胸を張って話すマテオに 「じゃあ、アレクサス王子にも会える?」 と聞くと 『もちろん。簡単だよ!』 そう言って、僕の身体に巻き付いた。 『僕と意識を合わせて……、アレクサス王子の名前を呼んでごらん』 目を閉じて、アレクサス王子を呼んでみた。 (アレクサス王子、アレクサス王子……) すると、遠い意識の向こう側に、客室のベッドに頭を抱えて座るアレクサス王子の姿が見えて来た。 (アレクサス王子!) 強く名前を心の中で叫ぶと、頭を抱えていたアレクサス王子が顔を上げた。 「亜蘭王子?」 ポツリと僕の名前を呼んだのが聞こえた。 (アレクサス王子、僕の声が聞こえる?) 遠い意識の向こう側に語りかけると 「えぇ、聞こえます。ですが、あなたは何処に……」 キョロキョロするアレクサス王子に手を伸ばした。 すると、僕はアレクサス王子の部屋の中に立っていた。 「亜蘭王子!」 驚いた声を上げるアレクサス王子に、『シッ』と自分の唇に人差し指を当てて静かにさせた。 戸惑う顔をするアレクサス王子に 「手紙、読みました。ありがとうございます」 そう言うと、アレクサス王子は力無く首を横に振った。
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