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デーヴィドとアイシャも、父様と母様みたいに仲が良い。
アイシャは歳を重ねる毎に、とても綺麗になっていく。それは「恋する乙女」だからなんだと、母様は言っていた。
デーヴィドはずっと、アイシャだけだった。
それはまるで、自分の運命を知っているかのようだった程に……。
アイシャがデーヴィドに恋愛感情を抱く前から、デーヴィドはずっとアイシャを守る為にと剣の稽古は欠かさないし、勉強でも何でも真剣に取り組んでいた。(まぁ……第1王子であり、王位継承権が一番だからというのもあるのだろうけど……)
だからなのか二卵性双生児とはいえ、デーヴィドはお気楽に過ごしている僕なんかと違って、凛としていてカッコイイ。
剣や魔力は、父様に次ぐ強さだとも聞いている。
僕は自分が痛いのも、人を傷付けるのも嫌で、剣の稽古は逃げて回っているのでへっぽこだ。
きっと僕みたいな奴は、母様の世界では『ヘタレ』と呼ばれるんだろう。
こんな僕が……、本当に恋なんて出来るのだろうか?
そんな風に思っていると、僕の手を小さな手をキュッと誰かが握って来た。
視線を向けると、エリザが僕の手を握り締めて
「亜蘭兄様には亜蘭兄様の良さがあり、ヴィー兄様には、ヴィー兄様の良さがあります。きっと亜蘭兄様にも、母様が父様に出会ったように、運命の方が現れますわ」
そう言って微笑んだ。
エリザ……きみはなんて出来た妹なんだ!
そう思ってから
「ん?エリザ。なんで父様と母様なんだ?デーヴィドとアイシャじゃないのか?」
と聞くと、エリザは愛らしい笑みを浮かべ
「だって、亜蘭兄様のお相手は……」
そう言いかけた。
しかし
「エリザ!ダメ!!」
母様が慌てた感じで、口元に人差し指を当てて『しーっ!!』と言っている。
するとエリザも慌てて口を手で塞ぎ
「あ……そうでしたわ。秘密でしたわね」
そう言って口を噤んでしまった。
僕が目を据わらせて母様を見ると
「俺は、父様が俺との出会いを『予言予言』と言っていたから、父様の思いを中々信じられなかったんだ。それで随分、父様を傷付けてしまった」
ポツリと母様が呟いた。
「多朗…………」
そんな母様を、父様が愛おしそうに肩を抱く。
「だからね、亜蘭にはまっさらな状態で出会って欲しいんだ。そして、亜蘭の心の琴線に触れた人と、先入観無しで恋して欲しい」
真剣にそう言われて、僕は俯いた。
今ではこんなに仲良しのお二人に、傷付け合うような時代があったなんて……。
そんな風に考えていると、エリザが僕の手を引いて
「そろそろお暇しましょう? 父様が、母様と仲良くしたいみたいで、ソワソワなさっていらっしゃるわ」
と、耳元に囁いた。
言われて二人に視線を向けると、母様の腰を抱き寄せる父様の手を、母様がペチンと叩いているので、父様が僕等に『二人にして欲しい』と目で訴えている。
普段はとても威厳があってカッコイイ父様だけど、母様の前ではデレデレだ。
「はぁ……」と溜め息を吐き出し、さっさとドアに向かって歩き出しているデーヴィドの後を追った。
部屋を出ると
「亜蘭、最後の溜め息はダメだぞ! 母様が気にしてしまうからな」
デーヴィドに額を人差し指で押されてしまう。
「デーヴィドは、平気なのか?」
「なにが?」
「その……父様と母様の……」
モジモジしながら聞くと、デーヴィドは吹き出して
「今更だろう? それに僕はアイシャと、父様や母様のような関係になりたいと思っているんだ」
そう言って微笑んだ。
「私も、お二人が仲良しなのは大賛成ですわ!」
そんな僕達の会話に、エリザもふわりと微笑んでデーヴィドに加勢した。
「それに私も、妹か弟が欲しいですし」
と答える10歳のエリザは仕方ない。
16歳という多感な年齢の息子の前で、平気でベタベタ出来る父様をどうかと思う!
そう考えていると
「亜蘭にも、大好きな人が現れれば分かるよ」
そう微笑んでデーヴィドに言われて、僕は『むぅ』と頬を膨らませた。
やっぱり僕には、『恋』ってヤツが分からないや。
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