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「はぁ.......」
部屋に戻り、一つ溜め息を吐く。
母様のせいで、僕はアレクサス王子に礼儀知らず認定されてしまったようだ。
あの後、父様と母様は僕を助けてくれたお礼と、僕の非礼(そもそも母様が悪いんだけどね!)をお詫びしてつつがなく終わったかのように見えた。
しかし、アレクサス王子は歓迎パーティーで僕をほぼほぼ無視していた。
デーヴィドやエリザとは親しげに会話するのに、僕には作り笑顔を浮かべて早々に会話に切り上げてしまう。
(母様からアレクサス王子の話を聞いてから、ずっと仲良くなりたかったのに.......)
再び溜め息を吐いて空を見上げた。
アレクサス王子が来る前日に、母様からアレクサス王子に付いて話は聞いていた。
アレクサス王子の父親であるセイブリア帝国の王、スレイブ様は、お忍びで訪れた酒場でアレクサス王子の母君、シーラ様と出会ったらしい。
シーラ様は、街の踊り子の中でも人気ナンバーワンの美女だったんだとか。
そんな二人が恋に落ちたとしても、次期国王と踊り子が一緒になれる訳もなく.......。
引き離されたものの、シーラ様はアレクサス王子を身篭っていたらしい。
シーラ様が育てるつもりではいたけれど、産後の肥立ちが悪く、シーラ様はアレクサス王子を産んで間も無く他界されたのだそうだ。
1人残されたアレクサス王子は、王宮に迎え入れられたものの、酷い差別を受けて育ったらしい。
それでも曲がらずに真っ直ぐに成長なされたアレクサス王子を、セイブリア帝国では黒い宝石と称えているのだとか。
その時に
「しかもね、亜蘭。王子の名前がアレンなんだそうだよ!亜蘭と一文字違いだなんて、凄い偶然だね」
なんて母様が言ったものだから、僕はすっかり親しみを持ってしまったんだ。
それなのに.......実はその呼び方が「愛称」だっただなんて.......。
母様のおっちょこちょいにも、本当に困ったもんだよ。
僕が深い溜め息を吐くと、夜の庭園をアレクサス王子がエリザに手を引かれて歩く姿が見えた。
今は子供と大人という感じだけれど、あと6年もしたら立派なレディーになるエリザとアレクサス王子はお似合いだ。
アレクサス王子は、遠目から見ても美しい容姿をしている。
しなやかで均整の取れた体躯。
ブロンズ色の肌が、彫りの深い顔立ちを妖艶に際立たせている。
漆黒の髪の毛に黄金の瞳も、全てが彼の魅力になっていた。
「あんなに完璧で美しい人が、世の中にはいるんだなぁ~」
思わず呟くと
「珍しいな、亜蘭がそんな風に誰かに見蕩れているなんて」
突然、背後から声がして驚いて振り向くと、デーヴィドがゆっくりと近付いて来た。
「何度も声を掛けたのだけど、窓の外に夢中になって気付かないから勝手に入らせてもらったよ」
父様似の美しい容姿をしたデーヴィドが、優しい笑みを浮かべながら隣に並んだ。
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