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「デーヴィドは良いよね」
思わずポツリと呟いた僕に、デーヴィドが肩を窄めて
「何で?」
と聞いて来た。
「だって……」
『父様に似て、カッコ良くて』と言いそうになって、唇をキュッと噛んだ。
その一言は、大好きな母様を批判する言葉になりそうで言えなかった。
すると僕の気持ちを察したのか、デーヴィドが
「母様ってさ、鈍感だから仕方ないけど……めちゃくちゃモテているんだよね」
突然、言い出した。
「はぁ……?」
「亜蘭もさ、実はとても人気あるんだよ」
デーヴィドの言葉に、思わず首を傾げると
「まぁ……亜蘭がこうなったのも、100%母様が悪いんだけど……」
そう続けて言うと、僕の両頬を両手で挟み
「俺からしたら、亜蘭の母様の瞳の色に近い黄金の瞳も、全部がチマチマって小作りな小鼻や唇も……可愛いと思うよ。まぁ……可愛いは女の子に向けられる言葉だから、嫌かもしれないけど……」
なんて言い出した。
「父様なんて、いつだって亜蘭亜蘭だし」
「それは……僕が弱いから……」
肩を落として呟く僕に
「剣術が強いから、強い訳じゃない。亜蘭は芯の強さがある。それは亜蘭の武器だ。亜蘭には亜蘭の良さがあるんだから、自信を持てば良いのに」
僕の頭を撫で、デーヴィドが呟いた。
「それにさ、リアム団長いるだろう?」
そう言われて、騎士団の中で最も強いと言われているリアム団長を思い出す。
団長は強面だけど、僕の事をめちゃくちゃ可愛がってくれている。(幼い頃は、よく肩車してもらっていたっけ……)
そんなリアム団長は、母様とは二人きりで会っちゃいけないらしくて、最近では僕と会う時さえも、常に他の護衛の人2,3人が付き添う形で会っている。
母様は
「いい加減、リアムだけで会っても良いと思うけど……」
と言っているけど、父様が絶対に許可しないんだよね。
そんなリアム団長、ワイルドではあるけどカッコイイのに、未だに独身なんだよね。
密かに、あのワイルドさが好きだとファンも居るらしいけど、リアム団長が全く相手にしないらしい。
父様は
「リアムが結婚したら、多朗や亜蘭の護衛を1人でやらせてやる」
とか言ってるんだよね。
そんな事を考えていると
「リアム団長の初恋の人って、母様なんだよ」
デーヴィドが呟いた。
僕、びっくりしてデーヴィドの顔を見ちゃったよ。
「えぇっ!」
「だから父様は、デーヴィドに母様を1人で近付けない訳。もちろん、そんな母様似の亜蘭になんて、絶対近付けないよね」
そう言われて、絶句した。
「しかも最近の噂では、リアム団長は亜蘭が好きなんじゃないか?って言われているんだ」
「まさか……」
苦笑いする僕に、デーヴィドは大きな溜息を吐くと
「俺は、あながち嘘では無いと思っているよ。確かに、子供の頃は母様の子供として見ていただろうけど……。最近では、リアム団長自体が亜蘭とは一人で会わないようにしていると聞いたよ」
真剣な顔をして呟いた。
「でもそれって、母様の面影を追って的な?」
「亜蘭!」
ふざけた口調で言った僕に、デーヴィドが声を荒らげて僕の名前を呼ぶと
「母様と亜蘭は、違う人間だ。確かに瞳の色や肌の色は同じでも、顔立ちは父様に似ている部分だってたくさんあるじゃないか。その鼻筋や綺麗な二重の目は父様似だ。むしろ亜蘭は2人の良い部分が似たので、男臭さが無くて心配になる位だ。もちろん、俺だって肌の色や髪の色は父様似だけど、鼻とか眉は母様似だと自負している」
デーヴィドはそう言う続けた。
「むしろ、その華奢な身体付きは誰に似たのか……」
心配そうに呟くと
「お前はちょっと前まで、月の姫って呼ばれていたんだからな」
と僕に向かって言ったのだ。
「姫?……誰が?」
「俺の目の前には、亜蘭しか居ないよね?」
デーヴィドの答えに、目が点になった。
「だからさ、アレクサス王子は、隣国の国王から『月の姫』と婚約するようにって言われて此処に来たらしいんだ」
もう、色んな情報が過多過ぎて、ぶっ倒れそうになりながら、頭を整理した。
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